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※掲載の肩書は取材当時のものです。

【世界の今】 バイデン政権と日米関係――同盟重視発言に安心してはいけないこと

石澤 靖治(学習院女子大学教授)

 120日にジョー・バイデン政権が正式に誕生する中で、私はそれが日本でどのように受け止められるか、ある1点だけを注目していた。

 それはこんなことがあったからである。昨年113日の米大統領選投票日の直前に、あるところで次のようなやりとりをした際のことである。そこで私は「もしバイデン氏が当選すれば、彼は同盟を重視するはずだから、自国第一主義を掲げて法外な要求をしてきたトランプ政権のようなことはなくなるだろう。ただ同盟重視というのは相互の協力であるから、日本も積極的に応分の安全保障上の負担をしていく必要がある」と述べた。するとその発言は「バイデン政権になれば、日本はそれなりの対応を迫られることになる、ということですね」と言い換えられてしまったのである。

 日本における日米関係に関するメディアのスタンスは、このように常に受け身である。そしてそれを国民も特に疑問もなく受け取っているようにも思える。1993年にビル・クリントン政権が誕生した際に「クリントン政権誕生で、日本は新たな対応を迫られる」という趣旨の報道がうんざりするほど見られたために、私は「アメリカに対して、日本が受け身で『れる』『られる』というような姿勢でとらえることはやめるべきだ」と主張したことがある。当時の日本はバブル崩壊過程にあったものの、日本経済はまだまだ脅威だとして、選挙期間中からかなりの対抗意識をみせてきたクリントン政権だったから、日本側がそのような気持ちをもったことはわからなくはない。また、2017年にトランプ政権が誕生した際には、全てにおいて型破りで何を言い出してくるか見当がつかない中で、日本側が受け身で対応せざるを得ないのも当然だったかもしれない。

 では120日の就任式前後のバイデン政権と日米関係についての日本側の受け止めはどうだったか。政府や関係者の全ての発言や報道をチェックしたわけではないが、「日本が厳しい対応を迫られる可能性もある」というような受け身の姿勢を示すものは、以前に比べるとわりと少なくなったという印象である(それでもあったということだが)。それは強面のトランプとは異なり、同盟重視のいわば「癒し」の米大統領バイデン氏だからであろう。

 確かにアメリカは、トランプ政権の言動で世界の同盟国との間に深刻な亀裂が入ったことを認識しているために、今回はかなり気を使っている。日本にとってアメリカが日本との同盟関係をどのように考えているかを問われるものの一つは、最近中国側が挑発的な動きを見せる尖閣諸島において、アメリカがどう行動するかである。それについてバイデン氏は、当選が決まった直後の1112日、菅義偉首相との電話会談で、自ら進んで「尖閣諸島は対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条の適用対象だ」と明言して、日米同盟の結束を強調した。その好意的な発言は日本側を驚かせ喜ばせた。また122日、ロイド・オースティン氏が国防長官就任を議会で承認されるとすぐに、岸信夫防衛大臣に対して同様の発言を行っている。

 しかし間違ってはいけない。当然のことだが、尖閣に対して中国が実力を行使した際に、日本側が何もせずに、米軍が尖閣を守りに来てくれるわけではない。日本が血を流してでも自らの国土を守るのが第一であって、米軍が支援するかどうかはその次の話である。また米大統領、国防長官の発言はそうであっても、米軍はアメリカの国益のために存在するのであり、日本の国益のためにあるのではない。アメリカのそうした姿勢については、共同通信のワシントン支局長などを歴任した春名幹男氏が著作『仮面の日米同盟』の中で史料をもって明らかにしている。

 バイデン政権の誕生で、アメリカも、世界も、そして日本も一息ついた。しかし同盟重視という彼の発言で気を緩めるのなら、むしろ日本にとっては危険さが増すことになる。米中、日中間の緊張が増す中で、バイデン政権下で問われているのは、同盟下での主体的な日本の姿勢である。

2021.1.28

プロフィール

石澤 靖治(学習院女子大学教授)

石澤 靖治(学習院女子大学教授)1957年生まれ。立教大学社会学部社会学科卒業。フルブライト奨学生として留学。ハーバード大学ケネディ行政大学院修了(MPA)後、「ワシントンポスト」極東総局記者、ニューズウィーク日本版副編集長などを経て、2000年より学習院女子大学助教授、02年より同大学教授、2011年4月から2017年3月まで学長。博士(政治学)。「トランプ後の世界秩序」(共編著、東洋経済新報社)、「日本はどう報じられているか」(編著、新潮社)、「大統領とメディア」(文芸春秋)、「戦争とマスメディア」(ミネルヴァ書房)、「アメリカ 情報・文化支配の終焉」(PHP)、など著書多数。