牛乳飲用の感謝とともに

これからも「生乳」を届け続ける 酪農のいま

 私たちのおいしく健やかな食生活に欠かせない、牛乳や乳製品。その原料となる「生乳」を生産する酪農家とはどのような仕事なのでしょうか。群馬県の酪農家・須藤晃さんに、フリーアナウンサーの中村仁美さんがお話を伺いました。

新型コロナウイルスの影響で給食が停止!

中村

 いま新型コロナウイルス感染症により社会全体が大変な状況ですが、全国の小・中学校が休みになり、学校給食用の牛乳の製造も止まりました。その影響は?

須藤

 とても大きいです。牛は生き物であり、急に搾乳を止めるわけにはいきません。給食の牛乳に仕向けられるはずだった生乳で給食用以外の牛乳やバター、脱脂粉乳をつくるなど、指定生乳生産者団体や農協などの酪農関係者と乳業メーカーが一体となって、私たち酪農家が搾った生乳を無駄にしないよう、懸命な努力をしてくれています。

中村

 我が家はみんな牛乳や乳製品が大好き! 牛乳は酪農家さんの応援のため毎日飲んでいます!

須藤

  皆さんに牛乳を飲んでいただいて、本当に感謝しています。

中村

 先ほど「牛は生き物」という話もありましたが、その牛からお乳を搾る酪農家さんは、毎日どのように働いているのでしょうか?

須藤

 うちでは毎朝5時に牛舎に入ります。牛たちの健康状態などを確認してから、妻や従業員と分担して排せつ物の掃除、餌やりを行い、6時くらいに搾乳を始めます。搾乳機を使って、子牛を生んだ母牛約100頭から生乳を搾りますが、すべて搾るのに3時間ほどかかりますね。

中村

 それを毎日行うのですね?

須藤

 ええ、でも朝の仕事だけではありません。牛はお乳を搾らずにいると病気になります。多くの酪農家は1日2回、朝と晩に搾乳をします。うちでは、昼間に畑での飼料づくりや堆肥づくりなどを行い、夕方にまた掃除と餌やり、搾乳を行っています。そのほかにも、分娩があれば対応します。昨日の夜中にも分娩があったのですよ。

中村

 毎日気が抜けませんね。

須藤

 毎日が真剣勝負です。うちの牧場では、従業員に「牛はお客様だと思え」と教えています。牛が快適に過ごせるように「サービス」を提供する。そうすると、良質な生乳を出してくれるのです。

中村

 愛情をこめて、毎日お世話をしているのですね。

酪農が果たす「意外な役割」とは?

須藤

 いま日本では、耕作放棄地が増加し続けています。そこで酪農家は、地域の耕種農家と連携して、使われなくなった田畑を活用し、牛の飼料を育てているのです。これを「耕畜連携」といいます。うちの牧場では地域の稲作農家に牛の餌となる米や麦などを作ってもらい、稲作農家はそのために機械を導入したり、人を雇ったりしています。

中村

 酪農は日本の国土を守るとともに、地域の産業を活性化させているのですね。

須藤

 はい。また酪農は、牛の排せつ物から堆肥を作り、それを使って牧草や米、野菜などが育てられ、牛が牧草などを食べてまた排せつする…というように、「循環型農業」の軸にもなっているのですよ。

中村

 最近よく「持続可能な開発目標(SDGs)」という言葉を耳にしますが、酪農はその実現にも貢献していると言えますね。

須藤

 その通りです。さらに、うちの牧場では子どもたちに食やしごと、いのちの大切さを伝える「酪農教育ファーム活動」や、障害のある方の雇用なども行っています。インターン生の受け入れも行っていて、初めは自信なさそうにしていた子でも「自分にもできることがある」と分かると、だんだん元気になってくるんです。

中村

 それは素晴らしいですね。須藤さんはなぜ、そうした活動に取り組まれているのですか?

須藤

 自分たちが誇りをもって取り組む酪農という仕事の魅力を、一人でも多くの人に知ってもらいたいし、できれば酪農家になってほしいからです。

中村

 須藤さんの前向きな姿を見たら、酪農家になりたい人はきっと出てくるだろうと思います。

これからも消費者と地域のために

中村

 現在の日本の酪農が抱える課題にはどんなものがありますか?

須藤

 一番の課題は、酪農家の数が減り続けていることです。背景には高齢化や後継者不足、労働力不足、それに飼料費や投資費用の増大など、多くの要因があります。

中村

 担い手がいなくなると、生乳の安定供給ができなくなる可能性もありますね。

須藤

 後継者不足や労働力不足については、その背景に休みが取りづらく労働時間も長くなりがちという酪農の特性があります。そこで、私の牧場では数年前から、乳牛一頭一頭にセンサーを付けて食事の時間や反すうの回数、睡眠時間などが把握できるシステムを導入しました。もちろん、人間の目で牛をよく観察することが最も大切であり、データを収集したとしても、それをどう活用するかは人間にかかっています。でも、こうした技術は酪農家の働き方をよりよく変えていく可能性があると思います。

中村

 須藤さんは酪農にITを活用しているのですね…。驚きました! 最後に、須藤さんの今後の夢を教えてください。

須藤

 私の夢は、須藤牧場を大きくすることではなく、いまの若い酪農家や将来酪農家になるかもしれない人たちに自分の考える「楽農」を伝え、それによって全国に酪農の仲間を増やすことです。これからも地域と共に歩み、多くの人々に酪農の魅力を伝えていきたいです。

中村

 須藤さんのお話を伺って、私も酪農という仕事に対するイメージが大きく変わりましたし、牛乳や乳製品がますますおいしくいただけそうです。今日はありがとうございました!

酪農家 須藤 晃さん

群馬県生まれ。前橋市で約200頭の乳牛を飼養する「須藤牧場」の経営主。良質な生乳を生産するとともに、地域の稲作農家と連携した餌づくりや、「酪農教育ファーム活動」などにも取り組んでいる。

フリーアナウンサー 中村仁美さん

神奈川県生まれ。2002年フジテレビに入社し、「すぽると!」などに出演。17年にフジテレビを退社した後はフリーアナウンサーやナレーターとして活躍している。現在は3人の子を育てる母でもある。

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