一般社団法人日本呼吸器学会 理事長
平井 豊博
京都大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学教授。1988年京都大学医学部卒。一般社団法人GOLD日本委員会理事も務める。
COPD治療中の患者さん
坂本 博和
人間ドックの受診を機にCOPDと判明。現在は治療を続けながら、週3日の通勤に加え、一緒に暮らす孫の遊び相手もこなす。
女優
杉田 かおる
5歳でデビューし、女優、バラエティー番組出演など幅広く活躍。COPD患者の母親を約20年間介護した経験を持つ。
肺の生活習慣病ともいわれるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、健康に長生きする上で見逃せない疾患です。しかし、認知度は低く、治療の機会を逸している患者が多いことも現実です。呼吸器内科医と患者、介護経験者の3人が、COPDの早期診断・早期治療の大切さについて語り合いました。
COPDは認知度が低く
症状も気づきにくい
- COPDは、たばこの煙を主とする有害物質に肺が長期間さらされることなどで生じる肺疾患です。肺気腫と慢性気管支炎という二つの病態が合わさり、労作時の呼吸困難、慢性のせき・たんなどの症状を生じます。様々な疾患に影響し、暮らしの質を大きく左右し、新型コロナウイルス感染症の重症化因子ともいわれます(*1)。課題は、国内に約530万人(*2)いると推定される患者のうち、実際に治療を受けているのが約22万人(*3)と、まだまだCOPDの認知度が低く、症状にも気づきにくいという点です。例えば、息切れがして階段を休み休みでないと上れなくても、年のせいだと考えてしまうこともあります。
COPD認知度(GOLD日本委員会、2021年12月調査)
- どんな病気かよく知っている
- 名前は聞いたことがある
- 知らない
- (単一回答 n=10,000)
参照:一般社団法人 GOLD日本委員会 COPD情報
サイト 「COPD認知度把握調査結果」
- ヘビースモーカーだった母は、63歳の時に肺気腫と診断されました。それまでにも苦しそうだったり息切れしたりすることはあったのですが、我慢強く、なかなか病院に行ってくれませんでした。お酒も好きでよく飲んでいたので、二日酔いで苦しいのかなと思ったりしていました。肺気腫と診断後は以前より栄養をしっかり摂るよう心がけ、合併症に気をつけていましたが、79歳で在宅酸素療法を導入した介護生活が始まりました。
- 私はCOPDと診断されるまでたばこを吸っており、ゴルフをしていて息苦しさを感じても、「年を取ったな」ぐらいに思っていました。60歳の時、人間ドックで呼吸器内科の受診を勧められ、そこでCOPDと診断されました。COPDという病気も初めて知りました。
治療を続けないと
フレイルの可能性も
- COPDになると、息苦しさから活動量が減り、動かないので筋肉が萎縮し、それがさらに息切れを強くするという悪循環が起きることがあります。筋力が低下すると要介護に近い状態「フレイル」の可能性も高まり、COPD患者の19%がフレイル、56%がフレイル手前の状態に該当したという報告もあります(*)。COPDは全身の臓器に影響する病気(*)であり、治療せずに重症化すると、呼吸不全のために在宅酸素療法を要することもあります。
- 母は症状が急に悪化し、集中治療室(ICU)に入った後、退院して在宅酸素療法を始めました。当時は酸素療法のできる施設が少なかったので、私はお医者様に往診に来ていただく形をとりました。途中から車いす生活になったのですが、酸素ボンベと車いす両方の重さで、私も腰痛になってしまいました。介護する側も年を取るんですよね。治療のおかげで寝たきりにならず回復し、4年5か月後に亡くなるその日まで、母は、自分でご飯を食べ、本を読むことができました。
- COPDと診断を受けてから、きっぱりと禁煙し、治療を7年間まじめに続けてきました。現在は息苦しさはありますけれども、とりたてて生活に困ることはありません。ただ、孫と鬼ごっこなんかすると、隠れて休まないと呼吸が厳しいんです。家族と一緒に生活していくため、これからもきちんと治療を続けなければと感じています。
治療を続ける目標を。
適度な運動も心がけて
- 思い当たる症状があればまず受診し、COPDと診断されたら医師の指導のもと治療を始めてください。たばこをやめ、風邪などでCOPDの病状が悪化しないよう感染予防も重要です。足腰が弱ると肺にも影響することがありますので、毎日少しでも散歩する、歩数計を持って目標を決めて歩いてみるなども大切です。日々の栄養面にも気をつけてください。
- 孫は保育園と小学4年生で、時には相撲もとります。こうしたことをもう10年ぐらいはやりたいと思って治療に励んでいます。また、患者会に入って昨年、5キロのウォーキングイベントに参加しました。ウォーキングは健康な人がするものだと思っていたら、呼吸器疾患のある方が、ウォーキングを日課に生活していらっしゃるんです。私も今年は10キロに挑戦しようと思っています。
- 治療を続けていると、駅の階段を休まずホームまで上れるようになったというようなことで、生活の質が良くなったことを実感できると思います。このように、改善の実感を一つ一つ持つことが治療を続けるモチベーションにつながります。
- 母は治療をがんばった結果、爪や皮膚の色が良くなり、肺から酸素がうまく循環しているのではないかと思う変化が少しずつ見られるようになりました。COPDを患っておられるご本人も、そのご家族も、希望を持ってがんばっていただきたいと思います。
- 5問の設問でCOPDの可能性を自分で簡単にチェックできる質問票を活用いただくほか、患者会には相談窓口もあります。人間ドックで肺機能の検査を受けていただくと、年のせいだと思っていた症状が、実はCOPDによるものだと気づけることもあるでしょう。肺機能は、健康な人でも年を重ねると下がりますが、COPDはそれを加速させてしまう可能性があります。健康寿命を延ばすためにも、早期の受診、早期の治療をおすすめします。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは(*)
たばこなどに含まれる有害物質によって気管支・肺がダメージを受け、呼吸がしにくくなる病気。長期間にわたる喫煙・受動喫煙が主な原因とみられ、ゆっくりと進行していくことから「肺の生活習慣病」とも言われる。
せきやたんが増え、体を動かしたときに息切れを感じるようになる。症状に乏しいこともあるので注意。重症化すると死に至る可能性もあり、日本人男性の死因9位(2021年*4)、世界の死因3位にあげられる。高血圧や心不全などの循環器系疾患、がんなどの合併率が高まる可能性があり、新型コロナウイルス感染症の重症化リスク因子ともされる。
COPDを発症した肺は完全には元の状態に戻らないとされるが、早期に発見し治療すれば、現在の息切れなどの症状を軽減したりだけでなく、将来の症状悪化、肺機能低下を抑制することも期待できるとされる。
NPO法人日本呼吸器障害者情報センター
(J-Breath)
COPDなど慢性呼吸器疾患患者とその家族のために、2000年に創設された患者支援団体兼患者会。患者がより良い療養生活を送れるよう、無料の相談窓口を設け、全国から呼吸器疾患で悩みを抱えた患者、家族からの相談を受けている。会報紙を通じた情報提供、医療講演会やウォーキングイベント「LUNG WALK(ラング・ウォーク)」といった啓発活動などを行っている。
肺の生活習慣病「COPD」
治療は自分のため、家族のために