地球温暖化が進む今、脱炭素社会の実現に向けて、政府、企業、そして国民はどうすればよいのか。
7月にオンラインで開催された「『深層NEWS』SDGsシンポジウム」では、小泉進次郎環境相が再生可能エネルギーの普及を加速させる姿勢を強調する一方で、国民にも政策への協力を呼びかけた。また、エネルギー関連業界を代表し、JERAの小野田聡社長とIHIの井手博社長が今後の戦略について専門家と議論した。
(※出演者の肩書・所属はいずれも2021年7月9日時点のものです。)
パネル討論—技術・工夫で変える
◎JERA 社長 小野田聡 氏
◎IHI 社長 井手博 氏
◎国際環境経済研究所理事 竹内純子 氏
◎国際大学副学長 橘川武郎 氏
——カーボンニュートラル(脱炭素)の実現には、国内CO2排出量のおよそ4割を占めるエネルギー業界を語ることなしに、話を進めることはできません。
小野田 東京電力と中部電力が2015年に設立したJERAは、国内最大の発電会社です。脱炭素は、私たちが先頭に立ってやっていかなければいけません。
井手 IHIはエネルギー・環境、橋や水門などの社会基盤、物流などの産業システム、航空・宇宙など多岐にわたる事業のすべてで、CO2排出量を減らす取り組みを徹底しています。
——50年までに脱炭素を実現するという昨年10月の菅首相の宣言をどう受け止めましたか。
小野田 首相の宣言の直前に、50年時点で国内外の事業から排出するCO2を実質ゼロにする戦略「JERAゼロエミッション2050」を公表しており、大変心強く思いました。様々な制度設計や技術開発が進むと期待しています。
井手 非常に意義あるものと考えますが、とても高い目標です。解決すべき課題が多くあり、技術のイノベーション(革新)がカギとなりますが、日本企業が中心的役割を果たせる分野だと思っています。
橘川 30年の目標達成は非常に厳しいですが、50年は十分に可能です。日本最大の火力発電会社であるJERAが、脱炭素を打ち出したことは驚きでした。
竹内 日本の温室効果ガス排出量は世界の3%程度で、日本がゼロにしても、温暖化問題は解決しません。日本が世界から期待されているのは技術での貢献です。
アンモニア 石炭の代替へ
——どのような技術で対応しますか。
小野田 JERAでは石炭火力発電所でアンモニアを石炭と一緒に燃やすことを考えています。
——アンモニアを燃やすとなぜCO2の削減になるのですか。
小野田 アンモニアの化学記号はNH3です。C(炭素)がありませんので、燃やしてもCO2が出ません。このアンモニアを石炭火力のボイラーで燃やすことで、発電量を変えずにCO2を削減していくことができます。
井手 アンモニア自身は非常に燃えにくく、適切に燃焼しなければ、窒素酸化物という環境汚染物質を排出します。IHIは、この点を抑えながらアンモニアを安定的に燃焼させるバーナーを開発しました。
——アンモニアの発電をどう進めますか。
小野田 24年度には愛知県碧南(へきなん)市の石炭火力発電所で、燃料の20%をアンモニアにして燃やすという世界初の実証を行います。アンモニアの割合はだんだん増やし、ゆくゆくは100%にして、CO2を全く排出しないゼロエミッション火力にしていきます。今後、大量のアンモニアが必要になるため、海外のメーカーと協業するなどして、調達にも関与していきます。
橘川 火力を使いながら脱炭素を実現するというのは、世界が待っていたやり方です。日本の現在のアンモニア消費量は約100万㌧ですが、50年の目標では約3000万㌧が必要になり、調達が重要になります。
竹内 実現可能な技術として期待できます。電力価格が上昇すれば、消費者の負担になるので、コストを抑えることがカギです。
火力と再エネ 組み合わせ
——再エネではどう取り組んでいますか。
井手 IHIは、蓄電池を使い、太陽光発電で課題となる電力の需給調整をするエネルギーマネジメントを事業化しています。また、福島県相馬市では、再エネで余剰となる電力を熱や水素に換えて利用する事業を展開しています。
小野田 JERAは大型の洋上風力に着目し、英国や台湾で先行的に投資し、ノウハウを蓄積しています。電源開発(Jパワー)などと組み、秋田県沖海域での洋上風力事業者の公募に応札しました。
井手 アンモニア自身は非常に燃えにくく、適切に燃焼しなければ、窒素酸化物という環境汚染物質を排出します。IHIは、この点を抑えながらアンモニアを安定的に燃焼させるバーナーを開発しました。
——脱炭素にどう挑戦しますか。
小野田 再エネでは洋上風力を推進しますが、自然条件に左右されるので、ゼロエミッション火力を組み合わせていきます。海外に技術を伝え、経済成長しながら脱炭素を目指すことに協力します。
井手 一番大事なのはスピード感とスケール(規模)感です。いろいろな企業や大学、機関とネットワークを作りながら技術開発を進め、社会実装のスピードも上げていきます。
橘川 再エネの中心は洋上風力になるでしょう。ただ、脱炭素の実現には、エネルギーの供給面の取り組みだけでなく、需要を効率的に節約する仕組みも必要です。
竹内 再エネをやりつつ、調整役となる火力発電を低炭素化するのは、現実的です。20年代に少しでも多くの成功事例を作り、30年代以降に横展開することが大事でしょう。
(2021年7月9日に実施した「深層NEWS SDGsシンポジウム」の採録です。)
企画=読売新聞
協賛=JERA・IHI