脱炭素 官民で挑む ~読売カーボンニュートラル・デイVol.4 <後編>

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2024.11.13
脱炭素 官民で挑む ~読売カーボンニュートラル・デイVol.4 <後編>
第3部に出演した世界的な建築家 坂茂 氏 ※1

第3部では、脱炭素社会の実現において無視できない二酸化炭素(CO2)の「吸収と固定」という視点から、木造建築や森林活用について話し合った。林野庁の難波良多・木材利用課長のほか、木造建築の普及を進める三菱地所の森下喜隆・関連事業推進部長、日建設計の大庭拓也・建築士らが登壇した。

※1 坂茂 氏: 1957年生まれ。フランスの国立芸術文化センター分館「ポンピドーセンター・メス」などを設計。2014年に「建築のノーベル賞」と呼ばれるプリツカー賞を受賞。能登半島地震の際は資材不足の中、木材を組み合わせた仮設住宅で建設を後押しするなど被災地支援にも関わる。

【セッション3】森林資源 使って育てる

――国内の森林や木材の利用状況は。

難波氏 国内の森林資源は、毎年6000万立方メートル増えている。だが、使われているのは半分。まだ使う余地はある。人工林は半分以上が樹齢50年を過ぎ、利用期を迎えている。 政府は2021年、木造化の推進対象を公共建築物から(民間も含めた)建築物一般に広げる法改正を行った。豊富な森林資源を、切って、使って、植えて、育てるというサイクルを回すことが大事だ。

森下氏 木造建築の活用は、CO2削減に非常に有効であり、我々も経営のテーマのひとつにしている。新しい建材を開発し、木造木質化を進めている。(板の繊維が交わるように重ね、強度のある)直交集成材だったり、木肌が見える天井材だったり。耐火規制をある程度、クリアしながら商品化を進め、新たな空間や木造の価値を提供している。

木造建築の進展について語る三菱地所の森下喜隆氏
木造建築の進展について語る三菱地所の森下喜隆氏

――国産材の活用サイクルをどう実現するか。

大庭氏 東京五輪の選手村に設けられた(選手らの交流施設)ビレッジプラザでは、全国63自治体から借り受けた木材で建物を組み立て、大会後、各自治体に返して再利用してもらった。有明体操競技場も、基本設計の段階から木材の調達を考慮してデザインした。設計の立場で、木の循環や地域と都市のつながりを取り込んでいきたい。

難波氏 設計段階で山とつながることはすごく大事だ。設計をしたはいいが、国産材を用意できなかったら、「外国産材しかない」、さらには、「木造は難しい」となってしまう。

――今後、どのような取り組みが大事になってくるか。

森下氏 山をどう育てるかを考えないと、「使って終わり」になってしまう。国産材で木造を作って循環を回していくことだ。我々が(魅力を)発信することで、価値を感じてもらいたい。

大庭氏 日本の木造は遅れているとの指摘がある。逆に言えば発展の可能性がある。今の枠組みでできないことも、話し合って解決に向かっていきたい。

難波氏 木を使うことが日本の森林資源を豊かにすることを理解してほしい。木造建築に取り組みやすい環境を整備し、木造が当たり前の世界を作りたい。

国産材の利活用について語る林野庁の難波良多氏(右)と、日建設計の大庭拓也氏
国産材の利活用について語る林野庁の難波良多氏(右)と、日建設計の大庭拓也氏

構造材にも仕上げ材にも

第3部には、世界的な建築家の坂茂氏も参加し、木造建築の「今」を語った。先行する海外の事例などを挙げつつ「鉄骨と異なり、構造材にも仕上げ材にもなる、こんな素晴らしい素材はない」と、日本でも木造建築の普及を訴えた。

坂氏が強調したのは、日本における木材建築を巡る技術、法制両面での対応の遅れだ。坂氏は、スイスの時計メーカー・スウォッチ本社の建設に際し、6000平方メートル以上の屋根全面で、構造材の木をむき出しにした。「消防法上の関係で日本では難しいが、ヨーロッパでは建物の表面に木を露出できるからこその設計だ」と語った。

建設にあたっても、3次元加工機を駆使し、4000を超える部材を精巧に加工したからこそできたという。坂氏は、「設計図から的確に加工できる技術者が、日本にはいない」と危機感をのぞかせた。

一方で、木造建築の普及も適切に進めていく必要性も語った。「“木造ばやり”だからと、『何でも木で作れば環境にいい』というメッセージは間違い」と強調。加工を最小限にし、組み立てやすさから解体のしやすさ、そして、次の用途まで考える設計や建築が必要だとの考えを示した。坂氏は、「日本でも、『本当の木造』をいい形で進めたい」と語った。

坂氏は現在、ウクライナ西部のリビウで、来春の着工を目指し、木造の病院設計を進めている。東欧最大の木材加工場を抱える自治体からの要請を受けて建設しているといい、「日本では、規制があって木造の公共建築には制約がある。世界ではこうした新しい建築が進んでいる」と訴えた。

【セッション4】 街づくり 暮らしに変化

日本政府がカーボンニュートラルを宣言した2020年10月から4年。脱炭素の生活が徐々に広がりつつある。第4部では、50年の「ゼロ」社会に向けて、新たな街づくりに取り組む森ビルの武田正浩・環境推進部長や、脱炭素につながる行動分析を実施したNTTコミュニケーションズの熊谷彰斉・ソリューションサービス部イノベーションオフィサーが登壇。環境省の島田智寛・脱炭素ライフスタイル推進室長も参加した。

――脱炭素の街づくりが進んでいる。

武田氏 東京都港区で2023年11月に開業した麻布台ヒルズは、緑に包まれ、人と人をつなぐ広場をイメージした。8ヘクタールの敷地の約3割が緑地だ。果樹園などを設けて体験やイベントもできる。エリア内の電気は100%再生可能エネルギーだ。下水道配管熱の再利用なども取り入れた。国際的評価が高い環境認証を二つ取得している。 広い土地に超高層ビルを建て、足元を人や緑に開放する「立体緑園都市」の開発を進めている。緑で覆える面積は約3割、エネルギー効率は約4割向上する。

島田氏 麻布台ヒルズは、国内外から注目されている。緑との触れ合いや再生エネを通し、暮らし手が脱炭素に取り組むきっかけになればすごく意義がある。ライフスタイルの転換につなげたい。

ビルを高層化することで「緑」と「広場」を確保した麻布台ヒルズ(森ビル提供)
ビルを高層化することで「緑」と「広場」を確保した麻布台ヒルズ(森ビル提供)

つながり「見える化」

――個人の生活にも変化は、起きているか。

熊谷氏 (他社も含めた)13社と昨年、行動と環境とのつながりを見える化するアプリを導入した。一部社員に参加してもらい、そのデータをもとに、どんなサービス・商品を提供すればいいかなどを議論している。「環境への知識・関心が高まった」との回答は77%、「環境に優しい行動を取り始めた」は63%だった。

島田氏 環境省は、脱炭素(デカーボナイゼーション)とエコを生活・活動で進める「デコ活」を進めている。ポイントは、衣食住と移動の脱炭素だ。照明を発光ダイオード(LED)にしたり、節水したり、食材の食べきりなどをしたりすれば家計も浮く。脱炭素行動にはメリットもある。先進的取り組みに補助金も出しており、開始1年で賛同する企業や団体は1800を超えた。

武田氏 麻布台ヒルズでゴミの計量課金制度を導入したところ、如実にゴミが減った。電気なども使用量を個別に数値で表示できるようにしたところ、使用量が減った。「見える化」は大きなポイントだ。

――効果が見えると行動変容が進む。

熊谷氏 環境を変えるのには時間がかかる。その点、数字で効果を体感できる「データ」は大切だ。見える化で継続的な行動につなげることや、多くの企業で連携してやっていくことが重要だ。

島田氏 活動を長続きさせるには、楽しみながらやることや、効果が見えるようにすることが大切だ。中小事業者や自治体からは、「先進的取り組みをしたくても、体力がない」という声を聞くが、取り組みやすい雰囲気を作り、裾野を広げたい。

生活・空間を通じた脱炭素のあり方について議論する(左から)NTTコミュニケーションズの熊谷彰斉氏、森ビルの武田正浩氏、環境省の島田智寛氏
生活・空間を通じた脱炭素のあり方について議論する(左から)NTTコミュニケーションズの熊谷彰斉氏、森ビルの武田正浩氏、環境省の島田智寛氏

主催=読売新聞社
後援=経済産業省、環境省、林野庁
協賛=NTTコミュニケーションズ、環境共創イニシアチブ、東京証券取引所、三菱地所、森ビル

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