広告 企画・制作 読売新聞東京本社ビジネス局
「切って使って、植えて育てる」。
国産木材の循環利用と強度・デザインの技術革新で目指す脱炭素&サステナブルな社会
オフィスビルやホテルのような大型建築物に国産木材を活用する動きが目立つようになっています。木材の強度や耐火性が近年、向上しているのに加え、森林資源の循環利用による脱炭素化の取り組みとしても注目されているからです。三菱地所グループも2030年に向けて注力すべき社会課題解決の大きな柱として、「国産材活用による持続可能な木材利用の推進」を目標に掲げています。20年には、三菱地所が中心となって総合林業事業会社を鹿児島県内に設立。林業の川上から川下までの一連の機能を有する工場を建設して国産木材の活用に力を入れています。その具体的な取り組みと社会的な意義について、三菱地所の木造木質化事業推進室で戦略企画ユニットのリーダーを務める青木利道さんに話を聞きました。
大型オフィスビルに新工法CLT。企業の「脱炭素貢献」アピールに
日本の国土面積の約3分の2を森林が占めています。その4割が人工林で、半数以上が利用適齢期の樹齢50年を超えています。森林はCO2の代表的な吸収源で、木材のCO2は建物に使うことで排出されず、固定化されるため、脱炭素化につながります。林野庁でも、こうした人工林の木を切って使って植え、さらに育てる、森林資源の循環利用の重要性を強調し、それが林業の活性化にもつながるとしています。
一方、樹齢50~60年を経過した樹木はCO2の吸収力が急減するとされています。そうした樹木を伐採しなければ、苗木を植えることもできず、森林の維持・再生のサイクルが止まってしまうことになります。林業の担い手不足が深刻なうえ、所有者がわからず、十分な管理が行われていない森林も多いのが、残念ながら日本の実情のようです。
切って使って、植えて育てる――。こうした森林資源を循環させていくことが、カーボンニュートラルや林業の活性化につながると、林野庁や国土交通省も国産木材の活用を後押ししています。
「強度が低いといった木材のイメージも克服されつつあります」と青木さんが教えてくれました。複数枚の板の木目が直交するように交互に重ねて接着した「CLT(直交集成板)」が建材として普及し始めているからです。従来の木材に比べて強度が安定し、断熱性にも優れていることから、国交省はCLTを使った建築物の設計法を16年に定めています。それらは戸建ての住宅に加え、近年は脱炭素化の流れを受けて、より大型の建築物に使われるケースが目立ち始めています。「脱炭素化に貢献しないオフィスは外資系や大手企業に敬遠されます。その点で国産材の利用は環境への配慮に対するアピールにもなります」と青木さんは指摘します。
新工場で“大径木”の丸太を製材。原木調達から販売まで一気通貫
では、三菱地所ではどのような取り組みを進めているのでしょう? 「三菱地所グループとして、サステナブルな視点から事業活動における木造木質化を推進しています」と青木さんは話します。「企業としてビジネス面と社会価値向上という面の両面で国産木材の活用に取り組んでいます」。三菱地所グループでは長期経営計画に合わせて、「Sustainable Development Goals 2030」を策定。その中で気候変動や環境課題に積極的に取り組む持続可能なまちづくりを行うために「国産材活用による持続可能な木材の利用促進」を大きな目標に掲げています。
実際、20年1月には、三菱地所が中心となって、竹中工務店や山佐木材など7社から出資を受けて、鹿児島県湧水町に総合林業事業会社「MEC Industry」を設立。大手デベロッパーとして初めて林業に足を踏み入れました。22年6月から本格稼働を始めた鹿児島湧水工場では、直径30センチを超す「大径木」と呼ばれる丸太の製材を行っています。こうした丸太は林業的には「育ちすぎた」状態で、従来の設備では加工しづらいために、直径20センチ程度の一般的な丸太よりも価格が安くなります。それを製材することで、コストを抑えた国産材の活用が可能となりました。
「さらにMEC Industryでは、従来、異なる企業によって担われていた原木の調達から製材、加工、製造、販売までの過程を一気通貫に行うことで、事業の最適化を図ることができるようになりました」と青木さん。昨年は同社が手がけた、CLTを採用した日本初の純木造プレファブリック住宅「MOKUWELL HOUSE」が「ウッドデザイン賞2022」の最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞しています。
将来的には周辺の山林から年間10万本の丸太を受け入れ、三菱地所グループの手がけるオフィスやマンションなどにも活用していく方針です。「ここでも、木の製材などを手がける『川上』から、設計や施工、事業開発なども行う『川下』までを全体的に見渡せるグループとしての強みを発揮できると思っています」と青木さん。
札幌に高層ハイブリッド木造ホテル。道産トドマツで「北海道を体感」
さらに三菱地所による日本初の高層ハイブリッド木造ホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」が21年10月、札幌市中心部に開業して話題となっています。地下1階地上11階建てのホテルのファサードには木材がふんだんに使われ、札幌を代表する目抜き通りの中でも一際目を引きます。
もっとも、木材の活用は表面だけではありません。地下1階から8階までが鉄筋コンクリート造(ただし、8階床はCLTを使ったハイブリッド造)ですが、9階から街を見下ろせるルーフトップまでは純木造。「三菱地所グループが推進してきた木造・木質建築物の成果を集約した新しい形のホテルです」と青木さんも胸を張ります。実際、構造材に使った木材の約8割が北海道産で、道内の人工林で最も量の多いトドマツを採用することで、「北海道を体感できる」と国内外の観光客の間で人気になっているそうです。
宮古島の空港ターミナルにCLT。美しいデザインで観光客を魅了
ほかにも沖縄県の宮古島に19年3月に開業したみやこ下地島空港ターミナルでは、屋根の構造材にCLTを採用。日本の空港ターミナルとしては初の取り組みで、宮古島の風景ともマッチして、ターミナルそのものが新しい観光地として注目を集めています。26年3月に福岡市の天神地区で開業予定の地下4階地上20階建ての複合ビル(仮称・天神1-7計画/『イムズ』再開発)の外装に九州産のCLTを使ったり、三菱地所グループのオフィスの内装に木材を積極的に利用したりしています。「建築の規模や用途によって、『木造』『木質』『木構造物』の三つの側面から最大限の利用可能性を模索していくことが大切だと考えています」と青木さん。
北欧では身近な大型の木造建築。日本でも木材の可能性を広げたい
「サステナビリティの追い風を受けて、さまざまな企業から国産木材の有効活用に関心を持ってもらえるようになりました。それを一般消費者の意識改革にもつなげていきたいと思っています」と青木さんは話します。「木を切ること」=「自然に手を入れること」=「良くないこと」と思われがちですが、実は人間の手を適切に入れることによって森林資源が循環し、結果として森が守られていくということをさまざまな事業を通して伝えていくことも大きな使命のようです。
今年秋、日本同様、森林資源に恵まれたヘルシンキやストックホルム、オスロ郊外など北欧を視察で訪れる機会があったという青木さんは至る所で大型の木造建築を見かけ、市民にごく当たり前に受け入れられている様子をまじかに体験したと言います。「自分たちの一番身近にあるマテリアルをどうしたら上手く使えるのか考えるのはとても自然なことだと感じました」