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楽しくなければ「デカボ」じゃない。一人ひとりが笑顔で取り組むカーボンニュートラルとは
2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標に向け、政府や企業の取り組みが加速しています。ただ、温室効果ガス排出量の多くを占めるのは家庭消費。目標達成には私たち一人ひとりの行動が欠かせません。
では、どんなアクションを起こせば、カーボンニュートラルに貢献できるのか。博報堂と三井物産がタッグを組んで設立した「Earth hacks」は、従来の商品・サービスに比べて温室効果ガスをどれだけ削減したか数値で示す「デカボスコア」などを通じて、一人ひとりの行動を促す取り組みを展開しています。
Earth hacksはどのような思いから生まれ、どんな未来を目指すのか。代表取締役社長の関根澄人さん(40)に話を聞きました。
生活者の行動変容が不可欠。しかし「積極的に行動」3%の日本
―――カーボンニュートラルを巡る世界、日本の現状はどうなっていますか。
待ったなしの状況ということで、世界的に国も企業も動いています。今注目を浴びつつあるのは生活者がどういう形で関わっていくかです。というのも、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)排出量の61%(※1)は家庭内消費からと言われているからです。生活者の行動変容がなければ、カーボンニュートラルは実現不可能なのです。
欧州などでは、「緑の消費者」と言われる品質や価格以上に環境価値に目を向ける消費者が増えており、商品開発やマーケティングに影響を与え始めています。環境関係のスタートアップも、どんどんと増えています。しかし、日本はそこまでには至っていないと言うのが現状です。
我々の調査では、日本においても7~8割の人たちが、カーボンニュートラルについて知識もあるし興味も持っています。しかし、積極的に行動している人は3%にとどまっています。
「何かしなければいけないと分かってはいるけど、何をしていいのかわからない」。これが日本の生活者の現状ではないかと思います。
「生活者×脱炭素」。総合商社と広告会社が組むからこそできることは…
―――「Earth hacks」設立に至った経緯を教えてください。
私は元々博報堂の人間ですが、2020年から3年間、三井物産のエネルギーソリューション本部に出向し新規事業を進める仕事に取り組みました。その中で、脱炭素という分野は、一つの企業だけで推進していくのは難しいと感じました。一方で、日本の総合商社と広告会社という、ある意味世界でも特殊な業態であり、ネットワークとして中立で、ハブにもなり得る存在が手を組むことで、「生活者×脱炭素」で世界を引っ張れる存在になれるのではないかと考えました。
三井物産の海外ネットワークを活用して、海外の先進的なサービスをいち早く日本に持ち込み、博報堂のクリエイティブ力やPR力で、日本人にとって「自分ごと化」することで、生活者一人ひとりの行動変容を起こしていけるのではないか。そういう思いで、2021年から共創型プラットフォーム「Earth hacks」としてプロジェクトをスタートさせ、2023年5月に会社を設立しました。
ポイントは「貢献実感」。デカボスコアでCO2削減を見える化
―――どんな事業に取り組んでいますか。
「生活者がアクションを起こすためには何が必要なのか」という問いがスタートです。そのために、アンケート調査や対話を重ねていくと、一つ大きなポイントがあることに気づきました。
それが「貢献実感」です。自らの行動がどれだけCO2の削減に貢献しているのか分からないと、なかなか一歩を踏み出せない。そこで身近な商品やサービスについて、それを購入することでどれだけCO2が削減できるのか「見える化」し、貢献実感を持ってもらおうと、考案したのが「デカボスコア」です。
参加企業から商品・サービスの素材、製造工程、輸送について情報を提供してもらい、私たちが「デカボスコア」を算出します。例えば、再生プラスチックを使っていることが商品のこだわりなのであれば、通常のプラスチックを使った場合とCO2排出量を比較して、「○○% off」という形で、誰が見ても一目で分かるようロゴで表示するのです。
(※)デカボ…英語のdecarbonization(脱炭素化)を略す形で「 Earth hacks」が作った造語。「『デカボ』とつくものは楽しく、環境にもやさしいとイメージしてもらえるようにしたい」(関根さん)という。
開始して1年ですが、現在、約70社が参加し、約120アイテムに「デカボスコア」が表示されています。企業から問い合わせも多く、どんどん増やしていけると感じています。
他にも「デカボメディア」と「デカボチャレンジ」という取り組みがあります。
脱炭素関係の情報発信というと、「このままでは地球が危ない」といった「恐怖訴求」になりがちです。「デカボメディア」はそうではない発信を目指しています。例えば、Instagramでバレンタインチョコの選び方をアドバイスする中で、「ちなみに地球のことも考えると、こんな選択もありえるよ」と、普段の生活の中から脱炭素に関係する情報を届けています。
私たちが、J-WAVE Podcastで配信している「offの日、どっちっち?」という番組は、「デカボ褒め」がコンセプトです。ゲストにオフの日の過ごし方を話してもらい、その中に隠れている環境にいいことを僕が見つけて、「それはめちゃくちゃデカボですね」と褒めまくるという番組です。「これをしなければいけない」ではなく、「今あなたがしている中に良いことがあるからそれを増やしてください」という形で情報を発信しています。
「デカボチャレンジ」では、企業と生活者の新しい関わり方を作ろうというものです。学生を中心とした若者が企業と一緒に新しい企画を作るなど、共創を目指す活動を展開しています。
ブランディング販路拡大にもつながる事例も
―――参加企業や消費者の反応はいかがですか。
2022年7月のマルシェで実証実験をしました。ペットボトルのラベルレスはデカボスコア化すると「8%off」程度なのですが、ラベルなしのものとラベルがあるものを、両方並べて、ラベルなしのものはデカボスコアが8%offだと分かるようにして、10円高くして売ると、結果、10円高い方を7割の方が買っていきました。別の日にデカボスコアを無くして、単にラベルがないほうを10円高く売ったところ、「ボッタクリだ」というクレームが殺到したそうです。8%でもちゃんと環境貢献しているということの見せ方が非常に大事だと実感しました。
UCCが展開している上島珈琲店ではタンブラーを持ち込むと50円引きのサービスをしています。マイタンブラーの「デカボスコア」を出してみると「63% off」だったので、これに関連づけて、1か月間63円引きにしてみたのです。13円お得になるということなのですが、「何で63円なの?」ということでお客さんと店員のコミュニケーションが目に見えて増えて、タンブラーの売り上げも通常月の4.5倍以上になりました。数字に物語や価値を付与することで売り上げにも貢献できるのです。
もう一つ紹介すると、高級タオルとして有名な「今治タオル」のブランド認定には厳しい審査があります。これが結果的にCO2削減に貢献していて、5社に協力してもらってデカボスコアを出すと、50%以上削減しているという数字が出ました。そこで高品質かつ環境にいいタオルとブランディングすることで、各社とも半年間で売り上げを伸ばすことができたといいます。
脱炭素と言うと、企業からすると「新たにコストがかかる」とか、「デメリットが多いけど、やらなければいけない」といったイメージがあると思いますが、リブランディングや販路拡大に繋がる可能性もあるというのが、デカボスコアの特徴だと思っています。
「楽しく生活していたら、いつのまにか脱炭素」目指す
―――今後の展望についてお聞かせください。
デカボスコアについては、参加企業1000社、1万アイテムを目指しています。その上で、「デカボ○○」として、様々なサービスをいろいろな企業と連携しながら作っていきたい。デカボカステラでもデカボジェットコースターでも何でもいいから、「デカボ」とつくものは、「どれも楽しく環境にもいい」というものにしたい。
2050年にカーボンニュートラルを実現するという目標は、目的ではなくみんなが今以上に笑顔あふれる豊かな生活をするための手段だということです。極端な話、2050年にカーボンニュートラル達成しても、人々が我慢に我慢を重ねて、下向いて生活をしているのでは意味がありません。
楽しく生活していたら、いつの間にか脱炭素になっていた、というような世の中をどうやって作っていくのかが、僕らが取り組むべきことだと思っています。