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トップ>特別企画>【対談】福原紀彦×瀬谷ルミ子 あらゆる枠を越えて活躍する「グローバル人材」への道

特別企画

【対談】福原紀彦×瀬谷ルミ子

あらゆる枠を越えて活躍する「グローバル人材」への道

日本人であることが信頼につながる場合もあります(瀬谷)

福原
 世界で活躍するためには、自分のアイデンティティーをしっかり持っている必要があるかと思います。瀬谷さんは、支援活動の中で日本人としてのアイデンティティーを感じたことはありますか。
瀬谷
 紛争地では、日本人であるということがメリットにつながる場合もあります。まず、中立性の高い存在として見てくれる地域が多いこと。また日本は敗戦も復興も経験していることから、親近感を持ってくれる人が多いこと。そして、技術力が高いというイメージから、私たちの活動に期待を寄せてくれることが挙げられます。
福原
 日本の好感度は、世界の中でも意外と高いと聞いています。私たちは謙虚さを美徳とする傾向がありますが、日本の中立性や歴史、そこからくるアイデンティティーを求めている人々がいることに気づく必要がありますね。そこに気づけば、自分にも世界に貢献できる素質があるのだ、世界に出て行こうという気持ちになると思います。それを、瀬谷さんは生き方を通して教えてくれている。そういう方が中央大学のキャンパスから育ったのは、とてもうれしいことです。もう一つ、女性であることが支援活動に影響を及ぼすことはありますか。
瀬谷
 現地の文化によっては、肌や髪を隠す、男性に対して意見を述べないなど気を配らなければならないこともあります。同時に女性だからこそ、現地の女性や子どもたちが自分が受けた被害を話してくれることも多い。男性には言いにくい「本当の話」を聞けることもあり、支援活動に役立っています。実は、紛争地で働いている日本人には女性が多いんですよ。
福原
 これからも中央大学から、女性はもちろん男性も、瀬谷さんのような方にたくさん出てほしいですね。ところで、今後はこの活動をどのように展開していく予定ですか。目標、夢などを教えてください。
瀬谷
 これまではNGOの立場から、援助の枠組みの中で、紛争地を平和にするための仕事をしてきました。その経験から、今後はビジネスの枠組みの中で、紛争地の経済を発展させていきたいと考えています。「援助」は期間が限定されがちですが、企業にも現地の人にもメリットのある「ビジネス」なら持続可能なはず。悲しい話ですが、戦争は武器の売買などがあってビジネスにつながりやすいですよね。その逆で、平和を作る・維持することがビジネスにつながる仕組みもあるべきだと思います。
福原
 それはすばらしい発想ですね。その発想こそ、今の日本企業に必要だと思います。社会貢献の意味合いではなく、経済活動ができて企業にも利益をもたらす仕組みを作る──とても力強く感じます。
瀬谷
 平和を作るには、現地で新しい産業を生み出し、反政府勢力に加わることでしか生きていけない人々に職を与える必要があります。すでに外国の企業が経済活動を始めている地域もあるので、日本企業にもぜひ加わってほしいですね。日本企業は、技術力はもちろん人材育成の点でも豊富なノウハウがあり、世界でも高く評価されていますから、現地の人々からの信頼も得やすいと思います。

国際社会と連携して実力を発揮できる人材を(福原)

福原
 日本企業だけでなく、大学院でもそういう取り組みができるといいですね。専門職大学院の「中央大学ビジネススクール」では、東日本大震災の後、研究の一環として東北でのビジネス再興に取り組みました。支援活動をビジネス復興の枠組みで行ったことで、院生と地元企業の双方にとって大変有効だったと聞いています。

瀬谷
 それは有意義な取り組みですね。今後は、大学や企業、地域などの垣根をできるだけ取り払って、互いに連携が進むといいなと思います。新たな価値やノウハウは、所属や立場の違う者同士が連携することから生まれるものです。学生の皆さんには、学内だけでなく現場へ、海外へとどんどん足を運んでほしいですね。
福原
 これまで研究機関や教育機関としての側面が大きかった大学にも、震災後は社会との連携がより強く求められるようになりました。今年度は、本学の国際プログラムが文部科学省の「グローバル人材育成推進事業」に採択され、また国際化に関する基本方針の策定や諸施策の実施を目的とした「国際連携推進機構」も創設しました。今後はこうした活動を推進して、日本社会はもちろん国際社会とも連携して活躍する人材を輩出していきたいと考えています。中央大学の学生は、能力は高いのに気づいていない人が多いように思います。
瀬谷
 海外で働くためには何を学んだらよいのか、迷う学生も多いようです。何を専攻するべきかという質問を受けることも多いのですが、どの学部で学んでも、そこには必ず現場で求められるものがあります。ですから、まずは自分が興味を持てる分野を選ぶことが大切。JCCPでは講演やインターンシップも実施していますが、私たちにできるのは選択肢を示すことで、道を選んで進むのは学生自身です。能力は高いのですから、興味を持てることや信じる道を見つけたら、ためらわずにぜひ実行してほしいですね。たとえ失敗しても、次の一歩を踏み出す際のヒントになると思います。
福原
 やはり実行することが大切ですね。どれだけ大学に国際プログラムがあっても、そこで学んだだけではグローバルとは言えません。違う言語、違う環境の中へ踏み出して実行に移してこそ意義があるのだと思います。
瀬谷
 今振り返ってみても、大学はそれを無限にできる夢のような環境だったと思います。学んだ専門知識をインターンシップに生かし、その経験をまた学問に生かす。学生の皆さんには、学びも実践もできる時間と環境をぜひ活用してほしいですね。
福原
 日本の大学は一過性で、18~22歳の4年間だけを過ごす人が多いのですが、海外ではいったん社会に出てから大学に戻り、専門知識を深めたり新たな学問を学んだりする人がたくさんいます。大学のこうしたあり方は、今後日本でも一般的になっていくかもしれません。
瀬谷
 その際、社会人を経て大学院に入った人たちと、学部生とが交流できる環境があるとさらにいいですね。私は学生時代に院生と交流できる機会があり、とても刺激になりました。大学生や院生、社会人が、枠を越えてお互いに刺激を与え合うことはとても大切だと思います。
福原
 そうですね。卒業生もその一員で、瀬谷さんには本当に感謝しています。中央大学で育った方が、また戻ってきてメッセージを発信してくれたおかげで、大学がまた一つ豊かになったように思います。この対談を読んだ学生の中からも、きっと次のグローバル人材が育ってくれることでしょう。今日はどうもありがとうございました。
福原 紀彦(ふくはら・ただひこ)/中央大学学長
1954年生まれ、滋賀県出身。中央大学大学院法学研究科博士課程を経て、杏林大学社会科学部助教授などを務めたのち、1993年に中央大学法学部助教授に就任、その後、法学部教授、法科大学院教授、法務研究科長、放送大学客員教授等を務め、2011年より現職。(財)大学基準協会理事、(社)日本私立大学連盟常任理事、文部科学省大学設置・学校法人審議会委員、防衛省防衛施設中央審議会会長等。
瀬谷 ルミ子(せや・るみこ)/日本紛争予防センター(JCCP)事務局長
1977年生まれ。中央大学総合政策学部卒、英ブラッドフォード大学紛争解決学修士号取得。国連PKO、外務省などでの勤務を経て現職。南スーダン、ソマリア、ケニアなど紛争地に展開する現地事務所と現場での平和構築事業を統括している。2011年、ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人25人」に選出。主な著書に『職業は武装解除』(朝日新聞出版)など。