Chuo Online

  • トップ
  • オピニオン
  • 研究
  • 教育
  • 人‐かお
  • RSS
  • ENGLISH

トップ>研究>日本学術振興会特別研究員(DC1)としての研究活動

研究

鶴見 周摩

鶴見 周摩 【略歴

日本学術振興会特別研究員(DC1)としての研究活動

鶴見 周摩/中央大学大学院文学研究科、日本学術振興会特別研究員DC1
専門分野 実験心理学、発達心理学、知覚心理学

 私は乳児を対象に知覚・認知実験を行っています。言葉の通じない乳児がどのように目に映る世界を認識しているのかを心理学的実験手法に基づき明らかにしていくことを常に目標としています。特に生後1年のうちに起こる発達的な変化は著しく、毎月来る乳児の様子を見るだけでその変化に気づき、驚きます。日々楽しく研究をしていますが、こうして研究できる背景にはこれまでの自分の活動を含め多くの支えがあります。今回はこの場を借りて、研究を始めたきっかけや、博士課程に在籍する一人の院生として現在の生活を発信できればと思います。

日本学術振興会特別研究員(DC1)採用までの研究生活

 私は現在、文学部心理学専攻の山口真美先生の研究室に所属しています。山口研究室はこれまで乳児の知覚(特に視覚)に関する多くの研究成果を報告しており、行動実験だけでなく生理的な指標に基づく脳計測実験など多岐にわたって行っています。私は学部のころからヒトの意識について興味があり、なぜ同じものを見たり聞いたりしても個人で感じ方が違うのか、など疑問に思っていました。当時、意識に関する本や論文を読んでいく中で、脳の活動を見ればヒトの意識の謎に迫れるのではと思い、学部4年時の卒論では乳児を対象に近赤外分光法(NIRS)を用いて幸運にも脳計測実験を行うことができました。実際に実験を行ってみて新鮮さ、楽しさを感じたと同時に、脳活動をみるだけでは意識を解明するのには限界があるということも実感しました。なぜなら、何かを見てそれに対応する脳領域が活動しても、なぜそれが見えたのか、なぜそのような感覚が生じたのかはわからないからです。ここが意識を研究する上で最も難しいところであり、このような経験から脳計測だけを行っても不十分であるということを痛感しました。

 そこで大学院に入学後は別の角度から意識を研究しようと考え、現在の研究テーマでもある視覚的注意の発達過程について調べることにしました。ここでの注意とは、感覚器官(眼や耳など)から入る様々な情報の中から、必要な情報のみを選択し、それ以外を排除する心的プロセスを指します。注意は自身でコントロールできるものとできないものがあり、コントロールできる注意はトップダウンの注意といわれ、意識的に特定の情報に注意を向けることを指します。一方で、コントロールできない注意はボトムアップの注意といわれ、例えば運転中に突然横から飛び出してきたバイクに自動的かつ無意識に注意が向くような状況を指します。一般に我々の意識は注意が向いたもので成り立っていると直感的に感じますが、いつもそうとは限りません。目に映るすべての情報に注意を向けていなくても、欠けることなく、無意識のうちに情報を補完しています。このように注意と意識は密接な関係にありますが、意識に注意は必要なのかなど、未だ議論されているホットな領域です。さらに、その発達については未知の領域で、言葉の通じない乳児でも大人と同じように世界を認識しているのかは謎です。注意のメカニズムを発達的に調べることで、同時に意識の発生過程も明らかにできるのではないかと思い、研究を行っています。最近では、脳波と行動を合わせて意識を調べる研究が増えており、自分も行動に加えて脳波も計測しようと考えました。

 山口研究室では、研究室が一つのチームとして乳児研究を行っているため、実験に参加している乳児の募集や謝金の用意などは個人が負担する必要がなく、研究に専念する環境が構築されています。また、学会発表や論文投稿も積極的に指導していただけるため、学振特別研究員の書類提出時には業績欄を埋めることができました。学部、修士のときから多くの発表機会をいただけたのは、書類の作成だけでなく、現在の研究活動にも大きな影響を与えています。

学振採用後の研究生活

 学振に採用されてから研究生活に大きな変化があったとはあまり感じません。基本的に毎日実験を行い、論文をまとめていくスタイルはこれまでと変わらず行っています。ただ、自分個人の研究費を獲得したことで研究の幅がかなり広くなったと思います。研究に必要な機材や、出張費を自分の裁量で決めることができるのはかなり大きいです。その分、自身でしっかりと管理する必要がありますが、それも自己管理能力を養うと考えれば博士の段階で経験できるのは良い機会です。私の場合、遠方の先生と直接会って打ち合わせをする機会が多く、これまでは学会のタイミングに合わせて行うだけでなかなか進まないこともありました。しかし、今では研究遂行上必要があるときに出張できるため、研究のスピードが速くかつ効率的になりました。また、研究奨励金を受給できるため、研究に専念する時間が以前よりも増えました。学振に採用されてから今に至るまで2本論文が刊行され、2回国際学会で発表し(口頭1回、ポスター1回)、1回国内学会で発表を行いました。そのうち、昨年の基礎心理学会では、学生の応募の中から書類審査で選ばれた6名のオーラルセッションの戦いを勝ち抜き、The Best Presenterを受賞しました。ひとえに先生、研究室の先輩の支えがあったからですが、研究に専念する環境に身を置けたというのも大きかったと感じます。

今後の目標

 現在は視覚的注意の中でも特に高速逐次視覚提示中の乳児の注意機能について研究しています。高速逐次視覚提示とは、複数の画像(風景写真など)が同じ位置に連続して約0.1秒間隔で提示されることを指します。ほんの一瞬しか画像が提示されず、さらに何枚も連続して提示されるため、一つ一つの画像がなんであったかを聞かれてもすべて正確に答えることはできません。しかし、あらかじめ決められた画像、例えば顔などを、我々は様々な画像の中から瞬時に見つけ出し、さらにその顔が誰であったかまで回答できます。これは、注意が素早く対象に向くことで、不要な情報から必要な情報のみを効率的に処理できたためと考えられます。このような注意の時間的側面についての発達過程は未だ調べられていないことが多いです。最近の我々の研究から、生後7ヶ月頃の乳児が、成人と同じく0.1秒で提示された画像の中から顔を見つけ、その顔が誰であるかまで認識できることがわかりました。これはまだスタート段階にすぎませんが、成人でよく用いられている課題(高速逐次視覚提示)が乳児にも応用できることを示しており、知覚・認知発達研究の幅が広くなることが期待されます。今後は、この課題を利用して、これまで成人でしか調べられてこなかった注意機能の発達過程について一つ一つ解き明かしていき、注意を通してヒトの意識の謎にも迫れていければと考えています。

 私の博士課程もまだ始まったばかりです。同時にこの期間は長い目で見れば単なる通過点にすぎません。現在の立ち位置に慢心せず、これまでと変わらず自分の興味があることをどん欲に研究し続けていきたいと思います。

  1. ^ Tsurumi, S., Kanazawa, S., & Yamaguchi, M. K. (2019). Infant brain activity in response to yawning near-infrared spectroscopy. Scientific Reports, 9(10631).
  2. ^ Tsurumi, S., Kanazawa, S., Yamaguchi, M. K., Kawahara, JI. (2019). Rapid identification of the face in infants. Journal of Experimental Child Psychology, 186, 45-58.
鶴見 周摩(つるみ・しゅうま)/中央大学大学院文学研究科、日本学術振興会特別研究員DC1
専門分野 実験心理学、発達心理学、知覚心理学
2017年中央大学文学部人文社会学科心理学専攻卒業。2019年中央大学大学院文学研究科心理学専攻博士前期課程卒業後、2019年より同大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程に在籍、現在に至る。日本学術振興会特別研究員DC1。
現在、視覚的注意の発達過程について乳児を対象に研究を行っている。論文に、”Tsurumi, S. et al., (2019). Rapid identification of the face in infants. Journal of Experimental Child Psychology, 186, 45-58.” などがある。

[広告]企画・制作 読売新聞社広告局