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卒業式祝辞に込められた思い

松村 みかさん/開発コンサルタント・小説家

 今年3月の「2018年度第136回中央大学卒業式 大学院修士学位授与式」(経済学部・商学部・総合政策学部・大学院)で、祝辞を述べた松村みかさんは、本学経済学部の卒業生だ。卒業後、青年海外協力隊を経て、世界各国で開発コンサルタントの仕事をするかたわら、小説家としても活躍している。そんな松村さんに、祝辞に込めた思い、卒業式の意味、学生へのメッセージを聞いた。

学生記者 津田 翔(法学部3年)

 「晴れやかな卒業式に出ることに気後れしてしまいました」。祝辞の中で、自身が卒業式に出席しなかった理由をそう説明した。大学2年の1月に父親が亡くなり、実家の印刷業の仕事に携わり始めた。夜は留学生寮でのボランティア活動、昼間は印刷の仕事という毎日で、ほとんど通学できなくなった。何とか卒業はしたが、きちんと勉強できたかと問われれば心もとなかった。

 「大学に友達はいたけれど、自分だけ違う景色を見ている気がして少し疎外感がありました。(大学生活は)心残りが多かった」と振り返る。

 卒業式の日は、一応は「卒業式に行く」 と言って仕事を休み、鎌倉の七里ケ浜の海、水平線を眺めて、門出を迎えた。

 「どこかで『負けてたまるか』って思いながら。あの日の景色は、今も私の中に残っています」

「繊細な絹糸とたくましい荒縄」

 3月に卒業生たちへのはなむけとして贈ったのは「繊細で美しい絹糸と強くたくましい荒縄をより合わせたような神経を持ちなさい」というメッセージ。松村さんの母親が、熊本の女学校を卒業した際に校長先生の祝辞として聞き、事あるたびに松村さんに言って聞かせた言葉だという。

 なぜ、この言葉を卒業生に贈ったのだろう。鎌倉の海の思い出は、松村さんの中にある「荒縄」の一部となっているのかもしれない。

 母親の生き方や人生にこの言葉が与えた影響を松村さんは聞いていない。それでも「母もどこかで『負けてたまるか』だったのではないでしょうか。私が青年海外協力隊で国外に出てしまった後は、母が印刷の仕事を切り盛りしていたわけですから」と話す。

  順風満帆とはいえない学生時代を送った松村さんにとくに影響を与えたのは、ボランティアをしていた留学生寮で接した留学生たちだった。

青年海外協力隊の体験「私が救われた」

 「留学生との交流は私には一番大きかった。彼らはみんな違っていて。それぞれ事情があって、お金にも苦労していた。彼らと議論をしたり、それまで教わらなかった日本のことを教えてもらったりすることは刺激的で面白かった。彼らの国の事情を聞くことで 、彼らの国にも行ってみたいと思いました」。言葉通り、在学中にタイやシンガポール、マレーシアに渡った。

 卒業後、青年海外協力隊として活動する際も、「助けに行くぞ!という気持ちより、家のこととか、しっかり勉強していないことへの負い目とかがあって、結局逃げるように海外に行った」という。「キラキラした日本の若者の中にいるよりは、海外のほうが居心地がよく、苦労をしている人たちのほうが共感をもてたんです。途上国援助というより、私が救ってもらった」とも。 松村さんは海外での活動に「救われた」と何度も口にした。

 「免疫がつくし、若いうちに失敗したほうが人としての土台が広くなる」。若い頃の失敗はいくらでも修正がきくよ、と松村さんは繰り返す。著書の『老後マネー戦略家族!』でも、うつ病になり就職した銀行を辞めてしまった 「宇宙(そら)」という人物が登場する。彼は一度社会から離れ、立ち止まってしまうが、自分らしい生き方を見つけていく。

 松村さんは乗り越えるべき課題を山にたとえた、こんな話もしてくれた。

 「初心者でも登りやすい高尾山に何度も登るより、槍ケ岳に登ろうとして失敗したほうが、次につながる。自分の能力を知り、ちょっと背伸びをした挑戦をしていくことで、見極めができるようになる。自分の限界もわかり、自分をコントロールできるようにもなる」

 失敗し、自分自身を知り、反省を次に生かすことで、少しずつ高い山を登ることができるようになる。目指す頂上があるからこそ頑張れるというのだ。

「たくましく生き抜いて」

 開発コンサルタントの仕事も挑戦の連続だ。毎回、行く国も違えばプロジェクトも違う。同じ電力開発でも、たとえばネパールとカンボジアでは社会的ニーズは違う。「同じことの焼き直しはできない」という。

 人は日々の中で、閉塞感や生きづらさを感じる瞬間が訪れることがある。失敗して落ち込む日もあるかもしれない。大学になんとなく入学し、卒業後はどこかの会社に勤めなきゃという、 どこか周囲に流されたような意識の学生もいるかもしれない。

 松村さんに、そんな若者へのメッセージを尋ねると、「もっといろいろなことを楽しんでいいと思う。楽しいという感覚を自分の中でもっと生み出してほしいなあ。勉強もそうだし、見ること聞くこと全 部 。せっかく一度きりの人生なんだから、悔しい思いをしてもいいし、感情の起伏がフラットなより、そうした部分を持ってほしいな。私なんて人の3倍も生きてやろうって最近思いますよ」と力を込めて話してくれた。

 3月の卒業式の祝辞は「一人ひとり、精いっぱい自分の人生をまっとうしてください」との言葉で結ばれた。どんなときも「たくましく生き抜いてほしい」という卒業生へのエールだ。

new window2018年度第136回中央大学卒業式・大学院修士学位授与式 多摩キャンパス午後の部
※祝辞は 1:08:00 あたりから

松村 みか(まつむら・みか)さん
1985年3月、本学経済学部卒。開発コンサルタント、 小説家。大学卒業後、青年海外協力隊を経て、世界各国で電力や医療、道路、農村開発に関する社会経済分野の専門家として開発コンサルタントの仕事に従事。その経験、知見をもとに小説家としても活躍している。『ロロ ・ジョングランの歌声』(2009年3月刊)で第1回城山三郎経済小説大賞を受賞。今年4月から本学経済学部客員講師として「海外インターンシップ」に関する講義を受け持っている。

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