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トップ>HAKUMON Chuo【2014年夏号】>【Close up】短い文章に魂込める 伝統の「宣伝会議賞」協賛企業賞受賞

HAKUMON Chuo一覧

Close up

短い文章に魂込める

伝統の「宣伝会議賞」協賛企業賞受賞

受賞作「憧れるより、近づこう。」

熊澤 野乃花さん

実力派のコピーライターを数多く輩出している広告・マーケティング専門誌「宣伝会議」(本社・東京)が主催する伝統の『宣伝会議賞』で、中央大学商学部4年生の熊澤野乃花さんが協賛企業賞を受賞した。就職活動を支援する企業が認めた「憧れるより、近づこう。」が、出来上がるまでの道のりを尋ねた。

学生記者 森田晴香(文学部4年)

 「宣伝会議賞」は、コピーライターの啓発や人材発掘・育成などを目的に同社が1963年から毎年行っているビッグイベント。

 初挑戦の熊澤さんは肩ならしではなく、本気で取り組んだ。

 「賞を獲る」

 広告コピーの制作スピリットは所属する商学部・飯田朝子教授ゼミの「広告表現研究」で叩きこまれている。

 第51回宣伝会議賞では、協賛企業40社からそれぞれ1課題が提供される。就職応援サイト、マスメディアン社の課題が「マスナビ」だった。ほかでは日本コカ・コーラ社の課題が「太陽のマテ茶」などと出題されている。

 課題にふさわしいコピーを考える。頭に浮かぶものを次々に書いていった。コピーが出てこないときでも、熊澤さんはひねり出した。書いているうちに思考回路がぐるぐる回り、アイディアの鉱脈を見つけて掘り下げていくと、不思議と言葉が出てきた。

 「お風呂に入っているときでも考えていました。湯船では力が抜けて、ポロンポロンポロンと言葉が出てきたりします」

 さっきまで思いつかなかったことが急に出てきたりする。風呂場のドアを開けたところにアイフォンを置いておき、いいコピーを思いついたら慌てて手を拭いて打ち込んだ。

 アルバイト中もポケットにメモを忍ばせて、頭に浮かんだコピーを書き残した。

 コピーの課題が常に頭の隅にあり、離れない。これはと思う言葉が、いつ出てくるのかわからない。出てきたコピーは絶対に逃さないようにしている。

 39社を対象に1000本のコピーを提出した。受賞作「憧れるより、近づこう。」がその中にあった。応募総数は過去最多の48万8916作品。その中からマスメディアン社がほれ込んで、協賛企業賞となった。

広告との出会い

 「高校のころは広告コピーも広告代理店の意味も、何をやっている会社なのかもわからなかったです」

 大学1年で飯田教授のゼミに入った。広告コピーとネーミングを題材にした<ことば>のゼミである。先輩に勧められ、コピーなどを考えることも好きだった。飯田ゼミに入ったことで、普段見ている広告やCMは誰かが作っているということを知り、興味がわいた。

 「気付いたら、自分がゼミの中で一番はまっていました。ゼミに入っていなかったら広告コピーを書いていないでしょうし、広告に興味を持つこともなかったかもしれません。そう思うと怖いです」

 宣伝会議賞を知ったのは、ゼミの3年先輩が同賞のコピーゴールド賞を取ったときだ。それを見ていて、プロが活躍する世界であっても大学生もやればできる、チャンスは誰にでもあると勇気づけられた。

 「自分もやればできるんだ」

 次に、先輩と同じところまで行けるのかな、とふと思った。

 2年生後期から、カリキュラムの関係でゼミではコピーが書けなくなった。本格的にコピーを書く勉強をするため、「宣伝会議」社が運営する養成講座を受けた。2年生の10月ごろから3年生になるまで。

 本格的に取り組まなければ、興味があるレベルで終わってしまうし、自分を追いこむことができない。養成講座が終わり、いよいよ宣伝会議賞への挑戦である。

まさか自分が

 広告コピーを応募し終えて、しばらく経ったある日、電話が掛ってきた。

 「マスナビの『憧れるより、近づこう。』というコピーを書きましたか?」と聞かれた。 

 <胸中ではそんなコピー、書いたかな? でもそれは言えないので>

 「多分…書きました。帰ったら確認してみます」と答えた。

 家に帰り、提出した広告コピーを確認してみると「あ、あった!!」

 下書きにもちゃんと書いてあった。受賞報告を受けたときは覚えてなかったが、自らの作品集を見直してみると、ほかの作品が堅いのに一つだけ自分の想いが色濃く出ていた。

 熊澤さん自身も就活中で、賞を選定した「マスナビ」は広告業界への就職サポートをしており、現在の自分はまさにターゲットだった。

 コピーは商品サービスの説明文になってはダメだと言われて、わかってはいたものの、いざ書いてみると説明のコピーしか出てこない。

 受賞作の「憧れるより、近づこう。」は、憧れるという言葉が嫌いだったところから始まる。「憧れているなら、憧れという感情を捨ててでも少し近づいてみたほうが、憧れに近づけるのではないか」。就活中にそう考えていると、このコピーがポッと思い浮かんできた。

 自分の考えていることが他の人に共感してもらえるようなものを目指していた。その人にしか書けないコピー、心の底から出たものが本当にいい言葉だけど、それがなかなか出せないから、ライターはみんな苦しんでいる。

 自分の想いがそのままこめられたコピー。自分が感じたありのままの言葉のほうが響くということに、受賞したことで気が付いた。

 日常使う<ことば>の大切なことを飯田ゼミで学んだ。

 「中大に入ってよかった。商学部に来てよかった、このゼミを最初に知ってよかった。運命だと思っています。このゼミを作ってくれた飯田先生に感謝します」

[もっと知りたい]

■糸井重里さん
「タモリやたけしがテレビの前面に躍り出てきたのは1980年代ですが、まるで申し合わせたように、その時期から広告の世界でも、フリーのコピーライターが大活躍するようになりました」―雑誌「広告批評」編集長だった天野祐吉著『広告みたいな話』(新潮文庫)の一文を引用した。有名なコピーライター、糸井重里さんがパルコのポスターに「男は死ぬ」と書いたことや同じパルコの正月広告に「貧―それがどうした」というキャッチフレーズをつくったことなどを紹介し、才能を高く評価している。

取材を終えて~学生記者~
9文字の魔力

エントリーシート作成に会社説明会、グループディスカッションに面接と就職活動のスケジュール帳が文字で埋まり、休む暇もない。それでもなかなか内定が取れずに焦る日々。心に余裕がないなか、熊澤さんに会った。

 広告業界に興味がある人で知らない人はいないであろう「宣伝会議賞」で、協賛企業賞を受賞した。大きな賞を取ったのだから、きっとインテリジェンスにあふれ、気取っている感じの人が来るのかもしれない…。わたしは身構えていた。

 勝手な予想は、見事に覆された。ショートカットにスラッとした背丈、目力のある表情、その全てが印象を明るくしていた。

 自己紹介をすると、「4年生なら同い年かあ。緊張していたけど、良かったー!」と頬を緩ませ、取材記者の緊張をほぐしてくれた。

 取材中に驚いたことが2つある。まずその「プロ意識」だ。ふだん生活をしていて食べ物や色、歌手、それに動物など様々な分野で人は好きなもの、嫌いなものが出てくる。「これ、好き。これは嫌いだな」とは思うけれど、それが“なぜ”なのかまでは、あまり考えない。

 彼女は「日常で、なぜ好きなのか、なぜ嫌いなのか。常に考えていないと、脳みそが死ぬ」と表現した。日々言い聞かせているともいう。

 コピーの勉強をしていても、「なぜこのコピーはここに出てきたんだろう」「どういう戦略のもとで出た言葉なんだろう」「自分が響いた理由って何だろう」と。

 街中のコピーも、人より一歩踏み込んで見ている。“いいな”で終わる人は広告を見る側。“なぜ”と考える人は作る側に向いていると思うと分析する。

 熊澤さんは、まさに作る側の人間である。もう1つ驚いたことは「負けん気の強さ」である。

 宣伝会議の養成講座に通っていたとき、作品が認められた受講生にはご褒美の鉛筆が渡された。自分も頑張って書いているのに、認められるものを生み出せていない…と悔しくなったという。

 C1グランプリという広告賞に応募したあとも悲しくなった。音沙汰がなかった。自分のコピーを見てくれているだろうが、すぐに切り捨てられるようなモノしか書けていないとわかった。

 同じ一文を書いているのに、どうしてこんなに差が出るのだろうか。悩んでいるときでも、熊澤さんはコピーづくりをやめなかった。宣伝会議賞を本気で取りにいき、たくさんのコピーを書き上げた。わたしなら10本出すのも苦労するのにすごい人だ。

 今まで経験してきた悔しさ、悲しさが、熊澤さんの広告コピーを考える原動力になっているのだろう。

 わたしが受賞作の「憧れるより、近づこう。」を初めて見たのは、就職活動が行き詰まっているときだった。

 賞のスポンサーは就職応援サイトのマスメディア。「あ、そうか、うじうじしているくらいなら、少しでも夢に近づけるように努力すれば良いんだな」

 コピーがすんなりと心に入ってきて、大いに勇気づけられた。わたしだけではない。受賞コピーが多くの人の力になれば良いなという気持ちが、取材を通してよりいっそう強くなった。

(森田晴香)

◆熊澤さんのコピー作品集◆

男の日傘は、戦う人の目印です。

(男性用日傘のコピー)
昨年、広告代理店のインターンシップ選考課題で書いたコピー。外回りで夏場にスーツを着ている男性に使ってほしいと思い、まだあまり一般的ではない男性用日傘が社会的に承認されることを夢見て書いたものです。

毎日を、勤労感謝の日にしたい。

(オフィスサプリのコピー)
これは宣伝会議賞に提出したもの。受賞はしていないですが、一次通過した我ながらお気に入りのコピー。

日本で一番、あったかい戦い。

(紅白歌合戦のコピー)
コピーライター養成講座で書いたコピー。「熱い戦い」というほど競っているわけでもないのに、毎年末繰り広げられている紅白歌合戦。その存在っておもしろいし、あったかくていいなあ、やっぱり見届けたくなっちゃうよなあと思って書いたコピー。

「こんなお墓に入りたくない」なんて、死んだ後では言えません。

(自分のお墓を買いたくなるコピー)
養成講座に通っていたときに書いたコピー。