「手がふるえて字が書けない」「箸やコップをうまく持てない」…。特に中高年の間でこうした症状を訴える人が増えている。「ふるえ」の治療に長年携わってきた日本定位・機能神経外科学会の前理事長の平林秀裕医師は「ふるえは治すことのできる病気。お悩みの方はぜひ専門の医師に相談を」と話す。
薬物療法で効果がなく 日常生活に支障をきたす場合は手術療法を検討
「ふるえ」をきたす代表的疾患には「本態性振戦」と「パーキンソン病」がある。本態性振戦(「本態性」とは「原因がはっきりしない」、「振戦」は医学用語で「ふるえ」のこと)はふるえ以外に症状がなく、主に両手がふるえる病気だ。命に関わるわけではないが、「書字ができない」「箸が使えない」など、日常生活に支障をきたす。
一方、パーキンソン病は中脳黒質のドパミン産生神経細胞の減少を特徴とする運動障害疾患だ。難病に指定されており、ふるえのほか、動作緩慢、筋強剛(筋肉がこわばる)、姿勢保持障害など多彩な症状が出る。本態性振戦はある姿勢時に出現しやすく、パーキンソン病はじっとしているときに起きやすい。
いずれの疾患も薬物療法から始めるが、効果が得られない時は手術療法(機能的脳神経外科療法)が行われる。
「頭蓋骨に小さな孔を開けて凝固針を入れ、脳の視床にある神経回路を熱凝固で壊す高周波凝固術(RF)や、脳の中に刺激電極を留置する脳深部刺激療法(DBS)が行われてきましたが、現在では超音波を一点に集めて病巣部を熱凝固するMRガイド下集束超音波治療(FUS)が主流となっています」(平林医師、以下同)
メスを使わず体にやさしい 振戦をとめる適切な選択肢
「FUSは1024本の超音波ビームを特定の神経核(ターゲット)に照射して凝固します。頭に孔を開ける必要がなく、 MRIで治療ターゲットの位置と温度を的確にモニターでき、症状の改善具合を確認しながら治療を行えるのが大きなメリットです。非侵襲なので出血や感染症のリスクも少なく、従来のRFやDBSに比べて、有効性は格段に向上しました」
2019年に本態性振戦、2020年にはパーキンソン病に対して保険適用となり「『振戦をとめたい』と願う方に適した選択肢」と平林医師はいう。
「頭蓋骨の状態により凝固できないことや、保険適用が生涯に1回だけ、脳の一側にしか認められていないなど課題もありますが、脳腫瘍、アルツハイマー病などへの応用も試みられており、今後も発展が期待できる治療法です。ふるえに悩む患者さんは全国に300万人以上いると推定されていますが、外科的治療を受けている方は年間1500人程度。ふるえは治すことのできる病気ですので悩んでいる方はぜひ専門の医師にご相談ください」
●監修 日本定位・機能神経外科学会 前理事長 大西脳神経外科病院 学術顧問 平林 秀裕
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