超高齢社会の進展とともに在宅医療のニーズがますます高まるなか「住み慣れた場所で自分らしく生き、最期のときまで穏やかに暮らせる社会」の実現のために、今どんなことが求められているのだろうか。在宅医療の現状や課題などについて、全国在宅療養支援医協会の会長を務める新田國夫医師に話を伺った。
記事監修協力
全国在宅療養支援医協会
会長
新田 國夫
にった・くにお
地域包括ケアシステムはまちづくり 「連携の質」を高めることが成功の鍵
「在宅医療」というのは地域に住む通院が困難な人に、人生の最終段階も視野に入れながら、医師、看護師、介護職や理学療法士、歯科医、栄養士などが連携して行う包括的な提供体制のことと理解していただけるとわかりやすいと思います。単に医療のみを提供するのではなく、多職種の人たちが連携してケアする必要があるということです。
その提供体制を担うのが地域包括ケアシステムです。団塊の世代が75歳以上になる2025年を目標に、医療、介護、福祉の連携を強化し、高齢者が住み慣れた家や地域で暮らし続けられるよう全国各地でシステムの構築が進められてきました。ただ、地域により格差があるのは否めません。うまく機能しているところは、行政やその地域に根ざした診療所の医師が主導的役割を担い、勉強会などを定期的に開くなどして多職種の人たち同士が繋がりを深めている所が多いですね。互いに言いたいことを言い合って議論し、うまくいかないところがあれば何が欠けているのか、足りない要素をしっかり認識して改善を重ねることで連携の質を高めていく。それが成功の鍵だと感じます。
理想としては中学校区くらいの範囲に「かかりつけ医」がいる診療所があり、そこを拠点として複数の医師が24時間365日態勢を敷いて、介護など様々なサービスが連携するという形がいいと思っています。中心となるかかりつけ医はその地域の患者さんと長年の信頼関係を築いているものです。日々、それぞれの患者さんの健康状態や生活スタイルを把握し、気軽に何でも相談できる間柄だからこそ、人生の最終段階においても適切な治療やアドバイスが可能になります。
地域包括ケアシステムづくりの本質というのはまちづくりなんです。サービスを享受する地域の住民たちも、在宅医療を提供する側と手を携え、住民同士、互いに助け合いながら、増えゆく高齢者を支えていくために協力して一緒に動いていけたらいいですね。
見慣れた人たちや景色に囲まれ、その人らしい最期を迎えるために
在宅医療では、複数の疾患を持った患者さんに対処していく必要があります。特に85歳を過ぎると単一の疾患ではなく、骨粗鬆症、高血圧、糖尿病、がん、脳卒中の後遺症、認知症など複数の疾患を持つ方が増えてきます。急性疾患や先端医療が必要な場合は病院で診療してもらいますが、それ以外の時は診療所のかかりつけ医が患者さんを全人的に診て、そのときの状況に応じた医療を提供することが求められます。
いま重要視されているのは、リハビリ、口腔ケア、栄養の3つをどう診ていくかということ。在宅療養をする人たちは病院で入院している人たちに比べて低栄養状態に陥る傾向があり、患者さんのQOLを維持するため、これらを三位一体でどのようにケアするかが課題の一つとなっています。
こうした課題を解決するためには、前述の連携の質を高めていくことに加え、究極的にどのような地域医療体制を整えていくかという構想やビジョンをしっかり持つことが重要です。都会に専門医が集中し、地方には医師がいないといった地域格差を招かないためにも、総合医の能力を持った医師を育成するしくみを整える、在宅医療への関心を高め、携わる在宅医をもっと増やす、並行してDX化を推進し、使いこなせるようにするなど、思い切った策を実行すべきだと思います。
家族が年老いた親を「もう面倒をみられないから」と施設に入れることを否定はしませんが、そこがただ死を待つだけの場所になってしまってはいけません。「住まう」(そこに居ついて暮らす)と言うとき、そこでは行為に制限があってはならず、自由であるべきです。どこに住んでいても、見慣れた人たちや景色に囲まれてその人らしく生き、穏やかな最期を迎えられる、そんな社会でありたいものです。
訪問診療中の新田医師
訪問診療中の新田医師
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