一次脳卒中センター「脳卒中に強い病院」特集
厚生労働省の人口動態統計(2021年)によれば、脳卒中は日本人の死因の第4位(1位がん、2位心疾患、3位老衰)。寝たきりになる原因第1位の病気でもあります。一般社団法人日本脳卒中学会では治療の均てん化を目指し、全国966施設を「一次脳卒中センター」に認定。患者を24時間365日体制で受け入れる体制が整い、発症直後の迅速な治療やリハビリを行うことが可能になっています。脳卒中治療の最新事情や予防のポイントなどについて、日本脳卒中学会の小笠原邦昭理事長にお話を伺いました。
日本脳卒中学会理事長
2024年日本脳卒中学会
第49回学術集会会長
岩手医科大学附属病院病院長・脳神経外科教授
小笠原 邦昭
おがさわら・くにあき/1984年弘前大学医学部卒。1991年東北大学医学博士。2008年岩手医科大学脳神経外科学講座教授。2018年4月岩手医科大学附属病院病院長(兼任)。日本脳神経外科学会理事、日本脳卒中の外科学会理事など多数の学会役員を歴任。
脳卒中の「卒」は「突然」、「中」は「あたる」を意味します。つまり「脳に突然(何かが)あたる」。昔の人は急に倒れる人の姿を見てそう考えていました。
その何かというのは脳血管障害のこと。脳の血管が『詰まる』か『破れる』かです。詰まると脳梗塞、破れると脳出血で、これらが脳卒中の95%以上を占めます。前者は詰まった先の血流が途絶え、酸素や栄養の供給ができなくなって細胞が壊死します。一方、後者は主に高血圧が原因。また、脳の表面は薄い透明のセロハン(くも膜)で覆われているのですが、その表面に出血が広がるのがくも膜下出血です。これは脳動脈瘤の破裂によって起こります。
脳卒中疾患の内訳は、脳梗塞7割。脳出血2割、くも膜下出血が1割です。発症に関わる危険因子としては高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、喫煙や多量飲酒といった生活習慣の悪化などが挙げられます。ただ近年はこうした危険因子の管理、治療がよりなされるようになったことで、死亡者数は年々減少傾向にあります。
脳卒中の治療は「Time is brain.」と言われるように一刻を争う時間との戦いです。発症直後からの超急性期には、血流が届かない細胞は壊死していくため、いかに早く治療を開始できるかが命を救い、後遺症をより少なくすることに繋がります。
脳梗塞の治療には、詰まった血栓を薬で溶かす「血栓溶解療法」と、カテーテルを用いて血栓を除去する「血栓回収療法」(血管内治療)の2つがあります。発症4時間半以内であればt-PAという血栓溶解薬を静脈に点滴する方法がとられます。なお、日本ではまだ承認されてはいませんが、先進各国ではt-PAより有用性が高いとされるテネクテプラーゼが用いられており、今後、国内の医療現場での導入が期待されています。
また、血栓回収療法では直径1ミリの細い血管にカテーテルを通し、血栓を奥まで回収できるデバイスの開発なども進んでおり、治療の幅が広がっています。
脳出血は時間の経過とともに出血が増えるため、薬で血圧管理を行い、出血の拡大や脳の二次損傷を防ぎます。なかでも、くも膜下出血は脳動脈瘤破裂が24時間以内に再度起こりやすいため、破裂を防ぐ処置を早く行う必要があります。治療は動脈瘤をクリップで挟むクリッピング術と、開頭せず足の付け根の血管からカテーテルを挿入して動脈瘤をコイルで詰める血管内治療(コイル塞栓術)が主流です。科学技術の発展に伴い、デバイスの材質などが年々進化しているため、開頭手術をしなくて済むケースが今後は増えていくでしょう。
一般社団法人日本脳卒中学会では、どこに住んでいても同じような治療が受けられる「治療の均てん化」を目指し、脳卒中の専門治療、血栓溶解療法や機械的血栓回収療法ができる施設「一次脳卒中センター(PSC)」を認定。全国各地に966施設あり、患者を24時間365日体制で受け入れています(各地の施設は同学会ホームページより検索可能)。
学会では現在、血栓回収が難しい場合などテレストローク(遠隔医療)でのやりとり、病院間の多職種連携や統括のあり方などについて検討しており、よりよい治療体制の構築に努めているところです。
予防に関して大切なことは次の3つです。特に働きざかりの方は気をつけて頂きたいのですが、一つ目は健康診断を必ず受け、医師の指摘があった場合は必ず再検査をすること。2つ目はパートナーや家族の意見をよく聞くこと、3つ目は禁煙、運動をすることです。これらに気をつけてもらえば脳卒中のリスクはかなり軽減できると思います。さらに、中高生を中心とした子供たちに、脳卒中を含めた健康に関する教育をしっかり行うことも、明るい将来に繋がると考えています。