重粒子線治療の拠点
2022年4月に5つのがんが保険収載され、注目を集める重粒子線治療。総合病院に接続した世界初の治療施設「山形大学医学部東日本重粒子センター」が描く未来像とは。
山形大学医学部附属病院
放射線治療科 診療科長
佐藤 啓
さとう・ひらく/2006年新潟大学医学部卒業。新潟県立がんセンター、QST病院などを経て、2020年から現職。
「重粒子線治療は、がんに高い線量を集中でき、周囲の正常組織への影響が少ない放射線治療です。2022年4月の保険適用の拡大以降、患者さんは増加傾向にあり、今年度は650名を超える見込みです。とくに通常の放射線(X線)が効きにくい膵臓がんや、様々な治療歴のある肝臓がんの問い合わせが多くなっています」
そう語るのは、東北・北海道エリア初の重粒子線治療施設として2021年に開設された山形大学医学部東日本重粒子センターの診療科長・佐藤啓医師だ。ただし、膵臓がんには他の臓器に転移しやすい性質があるため、重粒子センターを受診後すぐに治療適用となるのは膵臓がん全相談件数の4割ほど。まずは抗がん剤治療を始めて、他の臓器に転移が出現していないことを確認した上で重粒子線治療に入る。一方の肝臓がんは、4cmを超える大型の腫瘍をはじめ、肝内に複数個のがんが存在する、手術で部分切除しかできなかった、カテーテル治療を繰り返しても制御しきれなかったなど、相談内容は多岐にわたるという。
同じ放射線でも、X線と重粒子線では線質に大きな違いがある。X線は身体を突き抜けるため、がんを狙うとX線の通りみちの正常組織にも放射線が当たり、複数の方向から放射線を当てる工夫が必要である。これに対し、重粒子線はビームの直進性、集中性に優れ、また、がんのある深さでビームが止まるという特徴を持っている。
「この特徴ががんの周囲の正常組織に当たる範囲を減らし、副作用が発生するリスクを軽減することにつながっています。生物学的な効果もX線の約3倍と強く、少ない回数で治療できるのも重粒子線治療の特徴です。今後は、即時適用重粒子線治療を実現させ、さらに治療精度を高めていきたいと考えています」と佐藤医師は話す。
即時適用とは、治療の直前に照射室でCTなどの画像を撮影し、その場で治療計画を修正し、その日の患者さんの状態に即した治療を行う画像誘導技術を指す。即時適用のための設備の導入準備が始まったところだ。
また同センターで最も患者数の多い前立腺がんでは、がんの制御率をより高めるための線量増加や併用療法を企画しており、また、副作用を抑えるために患者さん毎にスペーサーを挿れるかを検討している。
「がんに対しては様々な治療法がありますが、ご自身にとってのメリット・デメリットの説明をしっかり聞いた上で、重粒子線治療をその選択肢に加えて頂きたいと思います。ご不明な点はセンターまでお気軽にお問い合わせください」(佐藤医師)
山形大学医学部附属病院
山形大学医学部 東日本重粒子センター
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