病院の実力2024 ＞ 横浜新都市脳神経外科病院

病院長
森本 将史

もりもと・まさふみ／1993年京都大学医学部卒業。2002年京都大学大学院医学研究科修了。同年Center for Transgene Technology and Gene Therapy（ベルギー）留学。国立循環器病センター脳神経外科、福井赤十字病院脳神経外科副部長、北原脳神経外科病院副院長を経て、2010年横浜新都市脳神経外科病院脳神経外科部長。2011年より現職。脳血管障害を専門とする。医学博士。日本脳神経外科学会認定脳神経外科専門医。日本脳卒中学会評議員。

救急搬送から治療開始まで平均20分台の超速を実現

　脳卒中の治療は、迅速かつ的確な急性期医療を提供できるか否かで、患者の生命予後と機能予後は大きく明暗を分ける。
　横浜新都市脳神経外科病院は断らない医療をモットーに、24時間365日、一次脳卒中センターコア施設の任を果たす。同院は、2023年は7千件を超える救急搬送を受け入れ（うち脳神経外科は5千176件）、これまで質の高い救急医療の実績により、救急隊からの信頼は厚い。地域の救急医療の拠点として大きな役割を担っている。
　そこには森本将史院長率いる脳卒中チームのたゆまぬ研鑽と実践がある。コアとなるのは8名の日本脳神経外科学会認定脳神経外科専門医と、8名の日本脳神経血管内治療学会認定脳血管内治療専門医。加えて麻酔科医、手術室看護師、診療放射線技師、臨床工学技師、臨床検査技師、薬剤師。SCU（脳卒中ケアユニット）に移床すれば脳卒中リハビリテーション認定看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等も参画し、高度で多角的な専門医療が行われる。
「救急は基本的に断りません。急性期脳卒中治療は、救急搬送から治療開始までの時間が一般に60分でハイレベルとされる中、当院は平均20分台で治療を開始します。処置や検査のタイムロスをなくすべく、関連職種の代表で構成された委員会を設置。全例を検証し、愚直に研鑽と改善に努めた成果です」と森本院長は説明する。
　検査機器や設備も充実しており、MRIは最新の3テスラを含む3台が常時稼働。CT共々、診断に必要な各種細密画像を素早く撮像し、患部の位置、形状、神経細胞の損傷レベルを正確に描出する。
　血管造影検査と血管内治療を行う先進の血管撮影装置（アンギオ・グラフィ）を備えたカテーテル室も3室を有する。

24床の脳卒中ケアユニットが高度な集中治療を実現可能に

　同院の特徴は、脳卒中の「ハイブリッド治療」が提供できることだ。メスを用いて開頭する「直達手術」とカテーテルによる「血管内治療」を同一スタッフが行えるため、患者の状況に応じて臨機応変に、安全性と予後の観点から総合的に治療方法を判断している。
　ハイブリッド治療が奏功する一例として、くも膜下出血では、直達手術の「クリッピング術」と血管内治療の「コイル塞栓術」という選択肢がある。
「血管内治療はダメージを受けた脳の温存に優れ、症状の改善を促せるメリットがあり、近年は7～8割が血管内治療の適用となっています。大事なのは、患部の位置や病態、既往歴をふまえて、より良い治療法を速やかに見極めることです」
　一方、脳卒中の7～8割を占める脳梗塞治療の主流は、脳動脈を塞ぎ、血流を阻害する血栓をカテーテル治療で除去する「血栓回収療法」だ。
「虚血による神経細胞の壊死が限定的なら、発症後24時間まで十分に効果が望めるとの論文があり、当院でも、血流再開で手足の麻痺や言語障害が劇的に改善する例を、多数経験してきました」
　血栓回収のデバイスには大きく分けて、特殊ステントでからめとるステント方式、ポンプによる吸引方式、双方を組み合わせたコンバイン式の3タイプがある。同院は病態に応じた最適な選択に努めており、2023年急性期血行再建術は144例。脳梗塞新規入院患者数も、近年は全国でも有数の施設である。
　脳実質内の脳出血では、血腫による脳の圧迫が命にかかわる場合、主に内視鏡による低侵襲な除去手術が行われる。
　これら高度な急性期脳卒中治療を支えるのは24床（24年度に30床へ増床予定）を確保したSCUだ。ここでは、血圧や脳頭蓋内圧の管理、浮腫、再出血への対応など脳卒中に特化した集中治療が行え、超早期にリハビリもうながす。看護師の配置も手厚く、一般病棟以上の死亡率低減、在院期間短縮、自宅退院率増加、ADL改善率向上に寄与している。

脳卒中の予防医療にも尽力　進技術も導入し高い実績

　地域住民を脳卒中から守るため、同院は予防医療の充実も図る。クモ膜下出血の原因となる未破裂脳動脈瘤は、直径5㎜以上で増大する傾向があれば治療を検討。前述のクリッピング術とコイル塞栓術に加え、先進の「フローダイバーターステント治療」に積極的に取り組む。
　これは動脈瘤のある正常血管に、極めて細かい網目状のステントを留置することで、瘤内への血流を抑制。うっ滞した血液は瘤内で徐々に血栓化し、半年～1年後には水分も抜け周辺組織に同化する。
「フローダイバーターステントは、コイル塞栓術と異なり、血管壁の薄くなった瘤自体に直接触れずに済む、より低侵襲な治療です。ただ瘤の大きさや位置によって適応とならない例もあり、必ず経験豊かな専門医に判断を仰いでください」と森本院長。
　現在この治療の認可を受けている施設は全国で77か所、神奈川県では6箇所のみだ。
　ドックセンター（脳ドック）では先進の設備と専門医の知見を活かし、無症状・未発症の疾患や危険因子の発見に尽力している。脳梗塞の原因となる重度の頸動脈狭窄症があれば、カテーテル治療である経皮的頸動脈ステント留置術、あるいは頸動脈血栓内膜摘出術を検討する。狭窄した脳血管をバルーンカテーテルで広げる経皮的脳血管形成術も必要に応じて行っている。
　同院では、予防医療と共に、回復期リハビリテーション病棟を60床備え、急性期治療後の社会復帰支援にも積極的だ。運動、嚥下、言語の機能改善から退院後の介護・福祉への橋渡しまで、リハビリ専門医と各セラピスト、医療ソーシャルワーカーがサポート。
　同病院の脳卒中治療に携わる医師、スタッフには、磨き抜かれた高いチーム力と切れ目のない質の高い医療を提供する強い意志が息づいている。