佐賀県の好アクセスな立地に誕生して10年。外来治療が中心の重粒子線専門施設として浸透した「九州国際重粒子線がん治療センター」の現状と今後の展望を塩山善之センター長に伺う。
センター長
塩山 善之
1990年九州大学卒業、医学博士。筑波大学陽子線医学利用研究センター講師、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンター客員研究員、九州大学大学院医学研究院教授などを経て、2016年より現職。
医療界、大学、行政、経済界の(産学官)合同プロジェクトのもと2013年に開業した「九州国際重粒子線がん治療センター(愛称:サガハイマット)」は、10年目の2023年12月末で累計治療患者数が9000人を超える重粒子線専門のがん治療施設だ。九州・山口エリアにおける重要な治療拠点として浸透し、年間治療患者数は国内7つの重粒子線治療施設の中で7年連続1位を維持している。センター長の塩山善之医師は次のように語る。
「治療を受ける患者さんは、2018年4月より公的医療保険が適用になった前立腺がんが最も多いのですが、2022年4月に新たに公的医療保険が適用となった肝がん、膵がんなども増えています。腹部・骨盤部のがんで、腫瘍と放射線に弱い消化管(小腸、大腸など)が接している場合では、腫瘍と消化管との間を隔てて安全性を高め、それ自体は数カ月で吸収されてなくなってしまう『吸収性スペーサー』を連携する病院の外科で留置して頂いたうえで照射する方法も積極的に活用し始めました。最近は骨盤内の腫瘍だけでなく、上腹部の腫瘍にも行っています」
重粒子線は放射線の一種で、光の速さの約70%に加速した炭素イオンを、腫瘍だけを狙って集中的に照射する治療法として、近年、公的医療保険の適用が拡大している。エックス線、ガンマ線などの一般的な放射線や陽子線よりがんの殺傷力が2~3倍ほど高く、直進性・線量集中性に優れることから、がん周囲の正常組織への影響を最小限に抑えられるのが大きな特徴だ。
「これは、将来的な副作用のリスクを抑え、『従来の放射線が効きにくい』と言われるがんにも効果が期待でき、手術が困難ながんも治療できる可能性があることを意味しています。加えて、治療期間が短く、通院で治療できることもメリットです。重粒子線がん治療を選択肢のひとつに加えて検討いただければと思います」と塩山医師は話す。
とくに「他に治療法がない」といわれるケースでも選択肢となり得る場合があることは重粒子線治療の大きな意義だという。例えば、早期肺がんと間質性肺炎を合併しているケースもその一つだ。手術や放射線治療などを行うことで肺炎が急激に悪化する急性増悪の危険があるため、たとえ肺の腫瘍が小さな段階で見つかっても、「経過観察」しかできないという場合が少なくない。
「そういった方でも重粒子線は比較的安全に治療できることが科学的に明らかになってきていますので、このような病態も含めて、今後、早期肺がんが公的医療保険適用となることを願っています。どんながんでも腫瘍の大きさ等による縛りがなく、すべて同じように保険で治療できるようになる努力も続けていきたいと考えています」(塩山医師)
九州国際重粒子線がん治療センター
(サガハイマット)
〒841-0071 佐賀県鳥栖市原古賀町3049番地
TEL.0942-50-8812
https://www.saga-himat.jp/
交通 博多駅から新鳥栖駅まで九州新幹線で約12分、福岡空港から車で約35分