痔の治療に強い病院特集
痔は、肛門や肛門周辺に起こる疾患のことです。代表的な病気には、痔核(いぼ痔)、痔ろう、裂肛の3つがあります。直腸脱は、肛門から直腸が飛び出す病気です。いずれも、生活の質を大きく左右する病気で、専門医による適切な治療が必要です。
■ 取材・インタビュー協力
日本大腸肛門病学会 理事長
松島病院 大腸肛門病センター院長
宮島 伸宜 医師
肛門の三大疾患といわれるのが、痔核(いぼ痔)・痔ろう(あな痔)・裂肛(切れ痔)です。
痔核は最も多く見られる痔疾患であり、皮膚と直腸の境目の皮膚側にできるものを外痔核、内側の粘膜にできるものを内痔核といいます。内痔核の主な症状は出血です。静脈のうっ血した内痔核から血が滲み出たり、時には噴き出したりすることもあります。大きくなると脱出や痛みが出てきます。外痔核の場合、痛みや出血がない場合は経過観察で問題はありません。強く息んだり、女性では妊娠や出産時の息みで一時的に外痔核になることもあります。
痔ろうは、肛門陰窩(こうもんいんか)から侵入した細菌が肛門腺に感染し、肛門内から外の皮膚側まで膿の通る管を形成した状態です。膿が溜まると腫れたり、痛くなったり、膿が出たりします。しこりを形成することもあります。
裂肛は、便秘や硬い便などが原因で肛門の出口付近の皮膚が切れる状態です。排便時または排便後の痛みが数分から数時間続くことがあります。慢性化すると肛門部の突起物や肛門ポリープが生じたり、肛門が狭くなったりして太い便が出せない状態になることもあります。
直腸脱は、肛門括約筋が緩み大きく開いて、直腸全体が出っ張ってくる状態です。肛門外へ脱出した直腸の粘膜が下着にこすれるので出血することが多く、直腸全体が翻転するので、かなり強い痛みがあります。
痔核の主な治療法は、①保存療法、②手術療法、③ALTA療法(ジオン注射)の3つ。1、2度の内痔核は、保存治療で、痛みや腫れ、出血を抑える軟膏や座薬、便を柔らかくしたり炎症を抑えたりする内服薬を使用しますが、出血や痛みが慢性的に続き、再発繰り返すようであれば手術を選択します。
有数の実績のある松島病院大腸肛門病センターでは、痔核の根治を目指す患者の手術を数多く行ってきました。「痔核の手術は、注入動脈を根元の部分でしばって、痔核を放射状に切除します。手術は約15分程度ですが、痔動脈という血管を処理するので、術後の出血等のリスクを考えた場合、1~2週間程度の入院が必要です。内痔核の根元をしばった糸は、当院では術後10日ほどで自然に溶ける糸を使うので抜糸の必要はなく、傷もきれいに保てます。当院の場合、痔核の術後による再発率はわずかです。再発率の低さから、入院施設のある病院として根治を目指す患者さんを受け入れることが多いです」と、同院の院長で、日本大腸肛門病学会の理事長職も務める宮島伸宜医師は話します。
ALTA療法は、アルミニウムカリウムタンニン酸液(ALTA)を痔核の上部、中央、下部の粘膜下層、中央の粘膜固有層に注射します。ALTA療法は手術よりも再発率が高いなどの欠点はありますが、注射をするだけなので入院の負担がなく、術後の出血も防げます。「当院では手術を薦めるのが主体ですが、子育て中の方や仕事の都合でどうしても手術が難しい患者さんも決して少なくありません。その場合はALTAによる治療を選択します。症状はかなりの確率で改善するので、治療の選択肢としては良いでしょう。ただし、可能ならば入院して手術をするのが理想です。いずれにしても、治療のメリットとデメリットを十分説明し、痔核のタイプや患者さんの状態にあわせて適した方法を実施します」(宮島医師、以下同)。
痔ろうは手術が必要です。同院では、経験豊富な専門医が新しい超音波機器を利用し、痔ろうの全体像を把握し、肛門括約筋機能を温存する手術を行っています。単純な痔ろうであれば、短期間の入院で済む場合もあります。
「痔ろうの手術では、括約筋の機能をどれだけ保持できるか、術後に早期回復できるかを担当医としっかり話すことが大切です。肛門は毎日使う場所なのでQOLは非常に大事。手術経験が豊富で、排便も含めた生活習慣までトータルケアをしてくれる病院を選んでください。ただし、痔ろうの原因が、クローン病の場合があるので、それを区別するため、痔ろうの手術を検討する前に内視鏡検査が必須です」
裂肛は、排便習慣を改善することで治ることが多い疾患です。慢性化した場合は手術の適応になりますが、そこまでに至る人は非常に少なく、保存療法が主体です。
直腸脱の治療も手術が基本。「手術法は細かく数えれば50以上もありますが、基本的には経肛門的手術と経腹的手術に大別されます。肛門の内圧と排便造影の検査で直腸脱の原因を調べ、その後、手術の方法を決定。肛門の筋肉を閉める機能が衰えている人が多いので、再発させないためにはどの手術が良いかを相談して決めていきます。直腸脱は、当院で年間約200件以上診断されるほど多い疾患で、高齢者だけでなく若い方にも発症します。腸を支える筋肉支持組織が弱い人や長年便秘で何年も強くいきんできた方などにも多くみられます」
初期症状の目安は、痔核は初期段階から出血や痛みがあること。痔ろうは自分で触ることができ、膿が出ることも。裂肛は痛みと少量の出血があり、直腸脱は脱出した直腸が下着にこすれて痛みや不快感が出ます。
「肛門からの出血の大半は痔ですが、中には大腸がんのこともある。同院でも、痔だと思っていたら大腸がんだった患者さんが一定数います。大腸癌の検査は10分もあれば終わる。基本的に麻酔を効かせた状態で検査をするので痛みの心配は全くありません。恥ずかしい人もいるかも知れませんが、検査室には複数の医療関係者がおり、安心して検査が受けられます。女性専門の施設も増えているので、女性医師を希望することもできます。健康診断で便潜血が出たり、日常で肛門から出血があったりしたら、必ず内視鏡検査をしてください。自覚症状があれば痔の治療を専門にしている病院やクリニックを受診することが大切です」と宮島医師は強調します。
「痔は、排便時に強くいきむ、便秘、運動不足、座りっぱなしなど、お尻に負担がかかる生活を続けることで発症することが多い疾患。生活習慣に気を付けることで多くの場合、予防できます。生活習慣指導も含め、直腸、肛門の疾患をしっかり理解している病院に行ってください。痔は病気だけを診ていても治る疾患ではありません。生活習慣も含めて指導してくれる医師の治療を受けることが望ましいです。筋トレが何歳になってもできるようにお尻も何歳になっても鍛えることができます。諦めずに治療に取り組んでいきましょう」