脊椎脊髄疾患手術・治療特集

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高齢になると、腰痛などの脊椎の疾患による痛みは仕方がないと考える人も少なくないようですが、脊椎脊髄疾患は運動器の機能低下を招き、要介護の原因に発展することもあります。近年は内視鏡や顕微鏡を使った低侵襲手術の普及や、画像診断やナビゲーションシステムなどの進歩によって、多くの医療機関で的確な手術が行えるようになりました。また、より質の高い医療をめざし、ビッグデータの活用や脊椎脊髄外科を専門とする医師の研修なども進んでいます。そうした脊椎脊髄病治療の最新事情について、山梨大学の波呂浩孝教授に伺いました。

波呂 浩孝

日本脊椎脊髄病学会 理事長
山梨大学大学院総合研究部
整形外科学講座 教授
波呂 浩孝

1989年山口大学医学部卒業、97年東京医科歯科大学大学院修了。2009年教授に就任。専門は整形外科、脊椎脊髄病など。日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会などに所属。



早期に医療機関を受診し適切な診断・治療を

 脊椎脊髄疾患とは、背骨(脊椎)とその中を通る神経(脊髄)に関連する病気で、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、骨粗しょう症性椎体骨折などがあります。
 椎間板ヘルニアは、骨と骨の間にある椎間板が変性し、はみ出すことによって神経を圧迫する疾患です。保存療法を行い、改善しない場合や痛みが強い場合は、ヘルニアを切除する手術を行います。
 腰部脊柱管狭窄症は、背骨が変形したり神経の通り道が狭くなり、麻痺が起こります。長く続けて歩けない間欠跛行が特徴で、進行すると日常生活に支障がでるため、手術で神経の圧迫を解除したり、変形を矯正します。
 骨粗しょう症性椎体骨折は、骨密度の低下と骨質の劣化によって起こる骨折です。まずは、装具による骨折部の安静と骨粗鬆症に対する薬物療法を行います。疼痛が持続したり、麻痺が起きれば、手術を行うことがあります。
 これらの疾患はいずれも加齢性変化と関係していますが、早期に適切な診断・治療を行えば改善する症例がほとんどです。安全な低侵襲手術も普及していますので、気になる症状があれば医療機関を受診してください(www.jssr.gr.jp/general/advisor/)。


手術支援技術の進歩により低侵襲手術が普及

 腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の手術では、内視鏡や顕微鏡を使った低侵襲手術が主流になりつつあります。従来の手術法に比べて傷口が小さく、手術操作に伴う炎症などが少ないのがメリットです。さらに、椎間板ヘルニアを分解する「ヘルニコア」という注射薬も導入されました。一方、ヒト型の注射薬も開発されており、2022年から山梨大学医学部付属病院と慶應義塾大学病院で治験を行っています。
 脊椎の変形や不安定性を伴う場合は、固定術や矯正術が有効です。従来は背中からアプローチしてスクリューなどの脊椎インストゥルメンテーションを使用して神経の圧迫を取り除き、変形などを矯正する固定術を行っていました。近年は脇腹からアプローチするXLIF、OLIFと呼ばれる筋組織へのダメージが少ない低侵襲手術が普及しています。こうした手術では、術中に高精度な画像を撮影できるO-arm®(オーアーム)や、ナビゲーションシステムを用いることで、より正確で安全な手術が可能になります。今後は手術支援ロボットやAIの活用など、手術周辺機器の技術開発がますます進むことでしょう。
 日本脊椎脊髄病学会では、各施設で行われた治療の内容や結果などを網羅する大規模データベースを構築し、2022年より運用しています。いわゆるビッグデータの活用によって、日本全体で臨床研究を進め、質の高い医療を提供することが狙いです。
 また最近、脊椎脊髄外科の専門医が日本専門医機構のサブスペシャリティ領域に承認され、2023年度から本格的に研修を開始します。患者さんへ質の高い医療を提供する医師の養成につなげていきます。
 脊椎の疾患で悩んでいる方の中には、医療機関の受診を先延ばしにする方もいますが、民間療法などを続けるよりも、整形外科を訪れ早期に治療を行うことをおすすめします。


高度手術支援機器を用いた低侵襲脊椎手術

高度手術支援機器を用いた低侵襲脊椎手術

高度手術支援機器を用いた低侵襲脊椎手術

高度手術支援機器を用いた低侵襲脊椎手術



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