脳卒中治療に強い病院特集

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 かつて、日本人の死因トップだった脳卒中は、治療技術の進歩と治療薬の開発により死亡者数が減少し、令和2年度は4位となっています。発症直後の迅速な治療が予後を左右することから、患者の受け入れ態勢の整備が進んできました。現在、「一次脳卒中センター(PSC:Primary StrokeCenter)」に認定された966施設では「血栓溶解療法」ができ、24時間365日、脳卒中患者を受け入れています。さらに「血栓回収療法」が実施できる「PSCコア」との連携体制も期待されています。

木村 和美

日本脳卒中学会 理事
日本神経学会 理事
日本医科大学付属病院 脳神経内科部長・教授
木村 和美

きむら・かずみ/1986年熊本大学医学部卒。熊本大学、国立循環器病センター、メルボルン大学、川崎医科大学などを経て、2014年7月より日本医科大学神経内科分野大学院教授。日本内科学会評議員、日本神経学会理事、日本脳卒中学会理事(2023年総会会長)、日本脳ドック学会理事(2022年総会会長)など多数の学会役員を歴任。


脳卒中の治療はチーム医療の連携が不可欠

 脳卒中は、血管が詰まる「脳梗塞」、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」の総称です。脳ドックなどの健診や、頭痛・めまいの診療で発見されることが多い未破裂脳動脈瘤の多くは破裂しません。しかし、まれに破裂して、くも膜下出血を発症することがありますので、一度は、専門医にご相談することをお勧めします。全体の割合は脳梗塞6割、脳出血3割、くも膜下出血1割。年間約10万人が脳卒中により死亡しており、命を取りとめても約3割の人に重い後遺症が残ることがあります。
 脳卒中で一番患者が多い脳梗塞の代表的な治療は「血栓溶解療法」と「血栓回収療法」の2つ。患者さんが救急搬送されてきたら、医師はそれらの治療が適切かを判断します。「血栓溶解療法」は、血栓溶解薬「t-PA」を患者に投与して血流を再開させます。t-PAは、発症から4.5時間以内まで使用可能ですが、診察や血液検査などの時間を考えると、遅くても発症3.5時間以内に病院を受診しなければなりません。
 カテーテルで血栓を取りのぞく「血栓回収療法」は、これまで発症から6時間以内の適用とされていましたが、症例によっては24時間まで対応の主流です。ただし、「血栓回収療法」は、一次脳卒中センターの一部でしかできないので、それが必要な患者さんが血栓回収療法ができない施設に搬送された場合は、「血栓回収療法」が可能な施設に転送するなどの、連携が必要です。
 例えば、血栓回収療法実績100件以上、脳卒中患者の受け入れは都内有数で、私の勤務している日本医科大学付属病院では、患者さんのファーストタッチを脳神経内科医が行います。そこで外科的治療が必要と判断されれば、患者さんを脳神経外科へ送り、脳出血であれば開頭術または内視鏡手術、くも膜下出血であればクリッピング術またはコイル塞栓術を行います。
 最近、血管内治療の適応範囲や新薬の登場が増えています。外科的治療と内科的治療の組み合わせが増えてきているので、外科医、内科医、そして看護師やコメディカルも含めたチーム医療の充実が大切。医療技術のめざましい進歩や新しい治療法の確立はもちろん、医療機器も日進月歩です。


生活習慣の改善で脳卒中は予防できる

 脳卒中の原因は高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、運動不足、アルコール摂取過多などの生活習慣と、心房細動という不整脈によるものがあります。特に多い高血圧、糖尿病と血栓ができやすくなる心房細動には注意が必要。生活習慣を改善し、健康診断で心房細動を指摘されたら早めに対応しましょう。新薬の登場により、脳卒中の発症を20%ほどに抑えることも可能です。
 脳卒中で倒れたらすぐに救急車で病院に搬送し、適切な処置を受け、術後は、可能であれば発症から24~48時間以内にリハビリを開始することが大切です。患者さんの症状の変化に伴い、急性期と回復期のリハビリ施設が連携することで、なるべく後遺症を残さずに社会復帰できるようになります。
 例えば、日本医科大学付属病院では、入院後超急性期(48時間以内)からリハビリテーションスタッフが介入するリハビリ体制を整備。脳卒中の患者さんに合併する失語症や高次脳機能障害に対し、日常生活や仕事、運転へのアプローチから、退院もしくは回復期リハビリテーション施設転院まで患者さんと家族をしっかりサポートします。
 脳卒中は普段の意識づけで予防でき、それによって発症を遅らせることができる病気なので、自己管理をしっかり行い、定期的に健康診断を受けることが重要です。


脳卒中予防十か条

脳卒中の主な症状