重粒子線治療の拠点
2022年に肝臓、膵臓、肝内胆管、大腸術後再発、子宮頸部の5種類のがんが保険適用になり、患者の治療の選択肢は大きく広がった。日本で唯一2種類の粒子線治療が可能な兵庫県立粒子線医療センターでは、豊富な経験と実績から患者に適した治療法を提案している。
院長
沖本 智昭
1990年長崎大学医学部卒業。米国テキサス大学留学、北海道がんセンターなどを経て、2014年兵庫県立粒子線医療センターへ。2015年より現職。医学博士。放射線治療専門医。神戸大学大学院客員教授、大阪大学招聘教授。
“がん撲滅”を目指して、世界初の「2種類の粒子線治療が可能」な兵庫県立粒子線医療センターが播磨科学公園都市に誕生して20年。「陽子線」と「重粒子線」どちらの治療もできる専門の医療施設はいまなお国内唯一であり、国外でも5施設に限られている。
一般的な放射線治療には、通常X線が使われている。X線は腫瘍に当てるとそのまま身体を突き抜けてしまうのに対し、粒子線には一定の深さ(腫瘍の位置)で止まるという特性がある。「これが将来的に患者さんに現れる副作用のリスクを大幅に軽減し、より集中性の高い治療を可能にしています」と院長の沖本医師は話す。加えて同じ粒子線でも、重粒子線には「陽子線より3倍近いがんの殺傷効果があり、ビームの直進性・集中性も高い」という違いがある。そのため同センターでは、必ず陽子線と重粒子線それぞれで治療プランを立て、どちらがその人にとって最善の方法であるかをカンファレンスで検討して治療方針を決定している。
「現状、どのがんにどの粒子線が適しているかいう明確なエビデンスはありません。そこで私たちは、2つの治療プランを見比べ、腫瘍の大きさと位置から、どちらの粒子線を使うほうが腫瘍にきっちりとビームを当てられ、かつ周辺組織には大きな放射線障害を出さずに治療できるかという2点に着目して判断しています」(同医師)
昨年、粒子線治療の保険適用が拡大したことで、新たに認可された肝臓がんの治療件数は前年比(4~12月)の2.3倍に、膵臓がんは2.6倍に増加した。先進医療を含め、現在14種類のがんで治療が可能だ。治療費用が不安な人には、自治体の貸付制度も用意されている。
外来通院が基本だが、同センターでは入院治療でなければ対応できない重度な患者や、遠方の人でも治療できるよう全50床を完備している。「神戸大学の肝胆膵外科や、近隣のIHI播磨病院の内科の医師と毎週キャンサーボード(治療方針を決める検討会)を行うことで、スペーサー手術や薬物療法を組み合わせる集学的治療を院内で行える体制も整えています」と沖本医師は説明する。ただし、小児がんに関しては小児麻酔科医の常駐や専門的な設備が必要なため、附属施設である「神戸陽子線センター」で対応。オンラインで毎日密なやりとりをして治療に当たっている。「がん治療は初回治療が肝心です。セカンドオピニオンも活用し、ご自身が納得できる方法にたどり着いてください」
兵庫県立粒子線医療センター
〒679-5165 兵庫県たつの市新宮町光都1丁目2-1
TEL.0791-58-0100(代)
https://www.hibmc.shingu.hyogo.jp/