病院の実力2023 ＞ 横浜新都市脳神経外科病院

病院長
森本 将史

もりもと・まさふみ／1993年京都大学医学部卒業。2002年京都大学大学院医学研究科修了。同年Center for Transgene Technology and Gene Therapy（ベルギー）留学。国立循環器病センター脳神経外科、福井赤十字病院脳神経外科副部長、北原脳神経外科病院副院長を経て、2010年横浜新都市脳神経外科病院脳神経外科部長。2011年より現職。脳血管障害を専門とする。医学博士。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。日本脳卒中学会評議員。

救急搬送から治療開始まで平均20分台の超速を実現

　脳卒中では迅速かつ的確な急性期治療が提供できるかどうかが、患者の予後の明暗を分ける。
　横浜新都市脳神経外科病院では、森本将史院長の率いる脳卒中チームが24時間365日、最前線で救急救命治療を担い、質の高い治療を迅速に提供している。チームのコアとなるのは、8名の日本脳神経外科学会認定脳神経外科専門医と、7名の脳神経血管内治療学会認定脳血管内治療専門医。
　そこに脳卒中リハビリテーション認定看護師5名と麻酔科医、臨床放射線技師、臨床検査技師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士などが参画。SCU専属看護師とも連携してチームで高度な専門治療にあたる。
「地域の救急隊とは日頃から密に連携し、受け入れ要請は基本的に断りません。そのため、2022年は病院全体の年間救急車受け入れ数は7000台以上に更新。うち1249件が脳卒中疑いでした」と森本院長は語る。
　そして同院のすごさは、救急搬送から治療開始まで一般的には60分でハイレベルとされるのを年々短縮することに努め、今では平均20分台で治療に入れるところにある。
「これは愚直に努力を積み重ねた結果です。処置や検査のタイムロスをなくすべく、血栓回収に携わる部署の代表でアキュートストローク委員会を運営。毎月全例をチェックしてチーム全体にフィードバックするなど、研鑽し続けています」
　さらに、検査機器の充実や動線の改善もスピードに貢献している。MRIは最新の3テスラを含む3台が稼動。CTと共に細密な立体画像を即座に描出し、血管の透視画像を多面的に撮影する血管造影(アンギオ・グラフィ)検査ができるカテーテル室は2022年に3室に増強した。そして救急外来とMRI、カテーテル室を1階に配置して、検査・診断・治療のさらなるスピードアップを実現している。

21床の脳卒中ケアユニットが高度な集中治療を実現可能に

　同院の特徴は、脳卒中の「ハイブリッド治療」が提供できることだ。メスを用いて開頭する「直達手術」とカテーテルによる「血管内治療」を同一スタッフが行えるため、患者の状況に応じて臨機応変に、安全性と予後の観点から総合的に治療方法を判断している。
　ハイブリッド治療が奏功する一例として、くも膜下出血では、直達手術の「クリッピング術」と血管内治療の「コイル塞栓術」という選択肢がある。
「血管内治療はダメージを受けた脳の温存に優れ、症状の改善を促せるメリットがあり、近年は7～8割が血管内治療の適用となっています。大事なのは、患部の位置や病態、既往歴をふまえて、より良い治療法を速やかに見極めることです」
　一方、脳卒中で最も多い脳梗塞に対して同院では、血管造影下で足の付け根の血管からカテーテルを入れ、血栓を回収する「血栓回収療法」に積極的だ。これを24時間365日実施可能などの要件を満たし、2022年4月には日本脳卒中学会の「一次脳卒中センター(PSC)コア」認定も受けている。
「症例によっては発症後24時間まで十分な治療効果が望めるとする論文も出ており、当院でも全力で取り組んでいます。そのため全国でも有数の実績を年々重ね、2022年の急性期血行再建術は162例にもなりました」
　この血栓回収においても同院では、特殊ステントで絡め取るステント方式、ポンプによる吸引方式、双方を組み合わせたコンバイン式の3種類から、状況に応じて最善策を選択している。
　同院のこのように高度な急性期脳卒中治療を支えるのが、21床もあるSCU(脳卒中ケアユニット)の存在だ。血圧や頭蓋内圧の管理、浮腫や再出血への対応など、脳卒中に特化した高度集中治療が行え、超早期からリハビリも開始できる。これにより、一般病床以上の死亡率低減、在院期間短縮、自宅退院率増加、ADL改善率向上などにつなげている。

脳卒中の予防的治療では最新技術でも実績を更新中

　そして同院は、脳卒中の予防的治療にも注力。くも膜下出血の原因となる未破裂脳動脈瘤は、直径約5㎜以上で徐々に大きくなるものが原則予防的治療の対象だが同院では、一般的なクリッピング術やコイル塞栓術のほか、最新の血管内治療「フローダイバーターステント治療」でも実績を重ねている。繊細な金属メッシュステントを脳動脈瘤のある正常血管に留置し、瘤内への血液流入を遮断して血症化を促し、約半年MRIで経過観察しながら血栓化を確認する治療だ。
「動脈瘤を触らずに、従来コイル塞栓術では再発率が高かった大型脳動脈瘤の破裂を未然に防げるなどメリットがありますが、瘤の形によっては適用しづらい場合もあり、経験豊かな専門医による慎重な判断が欠かせません。現在この治療の認可を受けている施設は全国で77件、神奈川県でも6ヶ所のみです」
　脳梗塞の原因となる頚動脈狭窄症の予防治療も万全で、頚動脈の狭窄部位には、経皮的頚動脈ステント留置術か動脈血栓内膜摘出術のいずれかで対応している。
　このような予防、急性期治療に加え、回復期リハビリ病棟を60床備えるなど、同院は回復期から維持期、慢性期への体制も手厚い。
　また、地域における生活習慣病予防講座などの取り組みも活発に行うほか、2022年10月にはドックセンターをリニューアルして、予防治療にも改めて注力している。
　こうして「磨かれた高いチーム力で、切れ目のない質の高い脳卒中治療を提供する」という、同院創設以来のモットーをスタッフ全員で体現し続けている。