がん診療のトップランナーとして、30年以上の歴史を刻んできた国立がん研究センター東病院。
がんで苦しむすべての人に世界レベルの医療を提供するため、さらなる進化を続けている。
院長
大津 敦
おおつ・あつし/ 1983年、東北大学医学部卒業。86年国立がんセンター入職後、92年東病院開院時からのメンバー。2012年 早期・探索臨床研究センター長等を経て16年より現職。
1962年の設立以来、日本のがん医療を牽引してきた国立がん研究センター。92年に千葉県柏市に開設された東病院は、今や年間9000人以上の新規患者が訪れる国内トップクラスのがん専門病院に発展した。世界レベルのがん医療の提供と世界レベルの新しい医療の創出の2大ミッションを掲げ、がんに苦しむ患者を診療と研究の両輪で支えている。同院は、外科領城では高難度の低侵襲手術に取り組み、放射線領域では日本で初めて陽子線治療を開始するなど、常に最新の治療を導入してきた。大津敦院長はこう説明する。
「各分野に経験豊かな専門医が揃っていることが強み。診療科の垣根を越えて緊密に連携し、より良い治療を提供しています。さらに多職種がチームを組んで心理面や社会生活をサポートするなど、患者さんを中心にした温かい医療を実践しています」
同院は併設する先端医療開発センター(EPOC)と協力し、新たな検査や治療法の開発にも力を入れる。その代表的な取り組みが、2015年に同院が中心になって立ち上げた全国がんゲノム医療推進プロジェクト「SCRUM-Japan(スクラムジャパン)」だ。スクラムジャパンは、標準治療がない、あるいは効かなくなった患者さんに「1日でも早く効果のある薬を届けたい」という同院の医師らの願いから生まれたもの。
「近年は遺伝子パネル検査が普及し、がん細胞のさまざまな遺伝子変化に応じて薬を選択するがんゲノム医療が行われるようになりました。スクラムジャパンはその一歩先を行くプロジェクトで、普及前の新しい検査技術を用いて解析を行います。一般的に行われている遺伝子パネル検査ではわからなかった希少な遺伝子変化も発見できる可能性があり、治療に難渋している患者さんが新薬の臨床試験に参加できるチャンスが広がりました」(大津院長)
スクラムジャパンには多くの医療機関や製薬企業が参加し、世界最大規模のプロジェクトに発展した。臨床試験で明らかな有効性と安全性が示された11の治療薬と9つの診断薬の薬事承認が実現し、全国の患者に届けられている。さらに産学連携で取り組む、AIによる手術ナビゲーションシステムの開発や、iPS細胞を用いた新しいがん免疫細胞療法の臨床試験など、新たな研究も進行中だ。大津院長は言う。
「がん研究は日進月歩で進んでいます。その成果をできるだけ早く患者さんに還元したい」
また、22年7月には、病院の敷地内に連携ホテルがオープン。遠方に住む人や移動がつらい人も治療を受けやすくなった。
「当院で最新の治療をより多くの方に受けていただければと考えています」(大津院長)
設楽 絋平
消化管内科長
2002年東北大学医学部卒。2023年より現職。
消化管内科は、「消化管にできるがんの薬物療法」を担当する診療科です。食道がんや胃がん、大腸がんに加え比較的稀な小腸がんや肛門管がんなど、年間のべ800例以上の新規患者さんの治療を行っています。薬物療法は手術や放射線治療と組み合わせると、より効果的な治療ができることも多く、外科系の各診療科や放射線治療科、症状コントロールを行う緩和医療科などとの緊密な連携が欠かせません。また近年、消化管がんの治療成績は改善してきていますが、当科はさらなる成績向上のために研究部門や先端医療科、各製薬企業と協力し、新たな治療法の開発にも積極的に取り組んでいます。新規治療の臨床試験も数多く実施しているため、承認が確実視されている新薬を臨床試験の段階から使用できるケースも少なくありません。今後も最新の治療を含め、より良い治療を提案していきたいと考えています。
中谷 文彦
骨軟部腫瘍科長
1996年九州大学医学部卒。2021年より現職。
悪性骨軟部腫瘍は、骨や筋肉、神経、脂肪組織などに発生する「肉腫(がんの一種)」です。稀な病気で専門的に診療できる医師や医療機関は限られているため、正確に診断されず、適切な治療に行きつくのが遅れてしまうことが少なくありません。進行したり、不適切な初期治療を受けた場合、手足の切断が避けられなくなることもあり、専門医による早期診断や治療が不可欠です。そこで当院では2021年に骨軟部腫瘍科を開設し、経験豊富な骨軟部腫瘍の専門医が診療する体制を整えました。手術にはMRI画像と融合したナビゲーションシステムを導入し、正常な組織をできるだけ残して腫瘍を摘出する「低侵襲治療」を実現しています。さらに日本で初めて当院が導入した陽子線治療は骨軟部腫瘍に高い効果を発揮するため、有用な選択肢として活用しています。体のどこかにしこりができたなど、近くの病院で骨軟部腫瘍が疑われた場合は、早めに私たちのような専門医を受診してください。
南 陽介
血液腫瘍科長
1996年名古屋大学医学部卒。2017年より現職。
白血病などの血液がんは「不治の病」というイメージで見られがちですが、ここ20年ほどの間に有効な薬が次々に登場し、治療は目覚ましい進歩を遂げました。血液腫瘍科は三大血液がん(悪性リンパ腫・白血病・骨髄腫)すべてに対応できる診療科で、化学療法や骨髄移植など従来のさまざまな治療に加え、開発中の新薬の臨床試験への参加など、最新の治療も選択肢として提供できる強みがあります。私たちが大切にしているのは、治療の効果や副作用について丁寧に説明し、患者さんの目線に立って治療を進めること。高齢で持病のある方や、働き盛りで仕事を続けながら治療したい方などそれぞれの事情を踏まえ、QOL(生活の質)にも配慮した治療を心がけています。そして診断から治療、治療後のフォローアップに至るまで、医師や看護師、薬剤師などでチームを組み、患者さんをサポートしていきます。
高橋 聡
皮膚腫瘍科長
1998年福岡大学医学部卒。2022年より現職。
当院は、皮膚がんを専門的に診療する全国でも数少ない医療機関の一つです。2022年4月に新設された皮膚腫瘍科では、悪性度の高い悪性黒色腫(メラノーマ)をはじめ、有棘細胞がん、乳房外パジェット病、基底細胞がんなど、すべての皮膚がんに対応できる体制を整えています。皮膚がんは種類も多く、悪性度や進行度により治療法は異なりますが、当科では豊富な経験と科学的根拠に基づき、個々の患者さんにとってより良い治療を提供いたします。また当科の特徴として、皮膚がんに対する手術と薬物療法を皮膚腫瘍科で一貫して行っています。専門性の高い治療をトータルで行えることは、患者さんにとって大きなメリットと考えています。私たちは常に患者さんとご家族の立場に立ち、一緒に治療を進めていくよう心がけていますので、わからないことがあれば何でもご相談ください。
小林 達伺
放射線診断科長
1993年筑波大学医学専門学群卒。2018年より現職。
「画像診断」は、がんの診療をする上で欠かせない情報です。当院の画像検査は、CT、MRI、核医学検査だけでも年間5万5000件以上。数多くの症例を経験している放射線診断専門医が、検査画像からがんの位置や広がり、転移の有無といったさまざまな情報を読み取り、各診療科の担当医にレポートとして報告します。患者さんの治療に役立つ正確な画像診断を担当医に届けることが、私たちの役割です。最新の診断機器を積極的に導入しているほか、難しい症例は複数の医師で意見を出し合うなど、診断の精度を上げる努力を日々重ねています。さらに各診療科の医師が集まって治療方針を決定する症例検討会(キャンサーボード)にも積極的に参加して、臨床に役に立つ情報を提供しています。 直接患者さんにお会いする機会はありませんが、一人一人の治療をしっかりと下支えしています。
国立がん研究センター東病院
〒277-8577 千葉県柏市柏の葉6-5-1
TEL.04-7133-1111(代)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/
■診療科目/頭頸部外科、頭頸部内科、形成外科、乳腺外科、腫瘍内科、呼吸器外科、呼吸器内科、食道外科、胃外科、大腸外科、消化管内科、消化管内視鏡科、肝胆膵外科、肝胆膵内科、泌尿器・後腹膜腫瘍科、婦人科、骨軟部腫瘍科、リハビリテーション科、血液腫瘍科、小児腫瘍科、歯科、総合内科、循環器科、麻酔科(橋本学)、集中治療科、緩和医療科、精神腫瘍科、放射線診断科、放射線治療科、病理・臨床検査科、先端医療科、感染症科、皮膚腫瘍科、脳神経外科、眼科