[記事監修協力]
全国在宅療養支援医協会 会長
新田 國夫
にった・くにお/1967年早稲田大学第一商学部卒業。1979年帝京大学医学部卒業。帝京大学病院第一外科、救命救急センターなどを経て、1990年新田クリニック開設。日本在宅ケアアライアンス 理事長、医療法人社団つくし会 新田クリニック 理事長・院長。
この10年で在宅医療の現場の状況は大きく様変わりしています。一般に65歳以上の方を高齢者としていますが、近年は85歳くらいの方まで元気です。この年代の元気な方たちはいわば“プレ高齢者”というべきで、いま本当の意味で在宅医療を必要とする方は85~90歳台の「老後の老後」ともいえる世代になってきました。
1人暮らしの90歳台の方たちにどのような医療を行うべきかは悩みどころです。その理由は、医療が手厚いほど要介護率が高くなり、結果として‶寝たきり„状態の期間を延ばしてしまうからです。そうした傾向が進む中で、どのような対策が望まれるでしょうか。
私は高齢者には、まず生活支援が必要だと考えます。たとえば、その地域での暮らしを望む一人暮らしの高齢者が、夜中に何か起きても決して放置されずにサポートを受けることの出来る仕組み作りです。そうした24時間体制の生活支援システムの確立こそが何よりも必要とされるものでしょう。その中において医療の位置づけは、地域主導で作られた仕組みを支えるものであり、決して「医療ありき」で行うものではないのです。
じつは、こうした仕組みは平成24年に介護・看護職員が連携して定期的に利用者宅を訪問する「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」サービスとしてすでに始まっていましたが、事業者の自由参入が裏目に出て、事業としての採算性の問題や介護・看護職員の確保の難しさ、自由参入に伴う事業者間の無駄の発生などがネックとなり、理想にはほど遠い整備状況となっています。
そうした問題を解決するには、例えばエリア内の事業者の乱立を避け、一つの小学校区域を1 カ所の事業者に任せて事業として成り立ちやすいようにするといった措置も期待されます。こうしたことも含め、急激に高齢化が進行する現状に適切に対応するためには、22年前に作られた旧態依然の介護保険制度を見直す必要もあると考えます。
高齢化社会に求められるのは、様々な状況にある高齢者が、自分らしい人生を楽しく全うできる環境をつくりあげることです。これはまさに現在進められている「地域包括ケアシステム」の目指すところであり、一日でも早い体制の構築が望まれます。
そのためには自治体と地域の医療関係者、そして住民が三位一体となり連携する必要があります。我々は医療者の目線で貢献することを考えますが、その視点で行くと「かかりつけ医」は重要なキーワードになります。患者さんを外来・在宅を問わずに診て、必要なら薬よりも環境の変化を勧める社会的処方の出来る医師、責任を持って最期まで看取る“人を診る”ぬくもりのある医師の存在が望まれます。
ただし、昔のように地域の開業医ひとりが走り回る時代ではありません。24時間の見守り体制を支えるには地域の医者がチームを組んだりワークシェアリングを行うことで可能になるでしょう。そういったことを理解できる医師の教育も必要になってくると思います。
最近では在宅医療に特化した医療サービスも出てきました。それはかかりつけ医の仕事を補うものなのか、次の在宅医療の形なのか過渡期にあると思っています。