膝・股関節の人工関節治療特集

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歳を重ねるにしたがって、膝関節や股関節に不具合が出てくる人も少なくない。そのようなとき、治療法の選択肢の一つとなるのが人工関節手術だ。近年手術件数が増加しているという人工関節手術は、どのような症状に適用となるのか。また、手術と術前術後について京都大学大学院医学研究科の整形外科学教授で日本人工関節学会理事長の松田秀一氏に話を伺った。

松田 秀一

日本人工関節学会理事長
松田 秀一

まつだ・しゅういち/1990年九州大学医学部卒業。93年Biomechanica Research Laboratoryへ留学。2007年九州大学整形外科講師、2010年九州大学整形外科准教授。2012年京都大学整形外科教授、京都大学医学研究所整形外科学教授。医学博士。日本整形外科学会理事・代議員、中部日本整形外科災害外科学会理事長、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会理事など。



 人工関節手術の件数は年々増え、データのある2019年で膝は10万例、股関節は7万3千例。人工骨頭手術も7万6千例にのぼっています。
 人工関節手術の適用が多いものは、関節の軟骨がすり減って痛む変形性股関節症や変形性膝関節症です。保存療法を続けても痛みが強く、活動範囲が制限されてきた場合や、症状の進行がみられる方に手術をおすすめします。
 近年は40代~60代を中心に膝関節の手術治療である骨切り術も普及し、2019年は約1万例にのぼりました。骨切り術とは、人工関節を入れるほどではない場合に関節の変形を矯正する治療法です。例えば、 O脚の治療では膝関節の骨を切って、楔形の人工骨を入れてややX脚寄りに矯正します。術後は少しずつ体重をかける必要があるのでリハビリに多少時間を要するものの、手術法の改良でリハビリが早くなっています。


人工関節や手術手技の質の向上でより低侵襲な手術に

 この10~20年で人工関節の手術手技が改良され、より低侵襲な手術ができるようになりました。最近は、筋肉をできるだけ傷つけないアプローチが主流です。そのほうが、術後の回復が早いためです。また、さまざまな研究の積み重ねにより、股関節の脱臼を防いだり、膝関節の可動域を広げることが可能になりました。また精度が高い手術を支援するテクノロジーが進み、好循環が生まれています。
 人工関節自体の材質も向上しました。金属と金属の間のクッションとなるポリエチレンの摩耗が激減したことにより、摩耗による再手術もだいぶ少なくなっています。関節と金属との結合性もより強固になったため、骨と人工関節とのゆるみも減少しました。
 患者さんごとに状況は異なるため、術前計画は入念に行います。手術はシミュレーションやナビゲーションなどを用いることもあります。術後は歩行訓練をすぐに始めてもらいます。約2〜3週間かけて膝関節周囲や股関節周囲の筋力訓練や可動域訓練や歩行や階段歩行の練習を経て退院となります。
 人工関節手術は年々改良が進み、合併症のリスクも少なくなりました。痛みを我慢しすぎて身体を動かさなければ、運動機能とADLの低下につながります。本当に痛いときはまずかかりつけの先生に相談して人工関節手術のできる病院を紹介してもらい、人工関節手術を検討してはいかがでしょうか。


膝・股関節治療でのロボット手術と再生医療の可能性

膝・股関節治療では、2019年より手術支援ロボットを用いた手術が保険適用になり、ロボット支援手術が増えています。的確な位置で骨切りができるようになったほか、靭帯の緊張度を加味した手術ができるので「ロボットを使った手術は精度が高く内部組織の侵襲も少ないため回復が早い」との結果も報告されています。
また、手術を避ける方法としてPRP(多血小板血漿)やAPS(自己たんぱく質溶液)を用いた再生医療もあります。保存療法のヒアルロン酸注射と人工関節手術の間の治療として今後確立する可能性はあると思います。


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