血管内治療に代表される「画像下治療(IVR)」など、低侵襲治療の進歩は目覚ましい。帝京大学医学部附属病院は、手術室と血管撮影室を兼ね備えたハイブリッド手術室を有し、今年は血管造影装置をバージョンアップ。脳神経外科等と救急科、放射線科の強固な連携のもと、脳卒中に代表される緊急を要する疾患、外傷に迅速かつ的確な治療を提供する体制がさらに充実する。
脳神経外科
主任教授
辛 正廣
しん・まさひろ/1994年東京大学医学部卒。東京警察病院、亀田総合病院等を経て2003年仏パリ大学病院に臨床医として留学。2008年東京大学医学部附属病院脳神経外科講師。2021年より現職。日本神経内視鏡学会技術認定医。専門は間脳下垂体腫瘍を含む、頭蓋底腫瘍全般。
当院脳卒中センターの最大の特徴は、開頭手術、内視鏡手術、血管内治療、点滴による血栓溶解療法を365日24時間体制で診療を行っていることです。
低侵襲手術に積極的に取り組み、脳内出血は内視鏡手術が可能です。内視鏡手術は局所麻酔で行えるため手術室の準備に時間がかからず、治療方針決定から30分程度で開始できるというメリットがあります。手術時間も30分ほどで、傷口が小さいため、抗血小板薬などを内服していて、止血が難しい患者さんにも安全に行えます。
脳梗塞の治療は、血管にカテーテルを入れて血栓を取り除く血栓回収療法が有効で、意識や麻痺が短時間のうちに回復する一方、治療は時間との勝負です。血栓回収療法は日本脳神経血管内治療学会が認定する専門医のいる病院でしか行えませんが、当センターには専門医3名、指導医1名が在籍し、診療にあたっています。
くも膜下出血に対しては、患者さんの状態、出血場所、破裂した脳動脈瘤の形により開頭手術か血管内治療を選択します。同じ病状なら血管内治療の方が治療成績がよいというデータがあることから、欧米では血管内治療が主流です。術後の回復も早いので、当院も血管内治療を選択することが多く、それができるのは放射線科や救急科との連携が緊密で、ハイブリッド手術室が整備されているためです。
最近は未破裂脳動脈瘤の治療が進化し、治療の難しい大型・巨大脳動脈瘤に対して、「フローダイバーター」という特殊なステントを使った治療が行えるようになっています。国内で実施できる病院は限られ、当センターはその1つです。
予定手術はすべての患者さんを対象に、術前検討として3D映像を使った手術のシミュレーションを行います。これにより最適な手術が可能となり、安全性も高まります。
開頭手術も血管内治療も、あるいは内視鏡手術も精度高く行える医師、ハイブリッドニューロサージョンが集まり、その力を十分に発揮できる治療環境の中、各科の医師、専門職が一丸となって治療に取り組んでいます。
庄島 正明
脳神経外科 教授
しょうじま・まさあき/1996年東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院等を経て2021年より現職。
脳神経外科の血管内治療は、そけい部(脚の付け根)や肘の動脈からカテーテルを挿入して行います。低侵襲手術として知られていますが、脳梗塞やくも膜下出血で緊急を要するとき、開頭手術よりも短時間で病変部にアプローチできることも大きなメリットです。
血管内治療が大きく進歩した理由は、放射線科の知見と経験の蓄積、そして機器や器具の進化です。血管内治療はエックス線で血管を造影しながら行いますが、人体への影響を最小限に抑えながら、血管やカテーテルを鮮明に映し出すためにさまざまな工夫を凝らした機器や器具の開発が進み、治療技術の高度化、安全性の向上に繋がっています。
今年、当院は血管造影装置をバージョンアップし、より精度の高い治療が可能になります。医師の力が3割、機器や器具の力が7割と言われる血管内治療において、よりよい医療を多くの人へ届けるために研究にも力を入れ、機器の開発や、遠隔治療のシステム構築にも挑戦し、意欲ある若手医師の育成にも力を入れていきます。
森村 尚登
救急科 主任教授
もりむら・なおと/1986年横浜市立大学医学部卒。2021年より現職。救急科専門医。
当院救急科は緊急性の高い病気や大怪我を診る高度救命救急センター、主に運動器の怪我を診る外傷センター、軽症から中等度の病気を診る総合診療ERセンターに分かれています。一刻を争う高度救命救急センターには、その場で手術を行える初療室2室、全身のCT検査、IVR、緊急手術を行えるハイブリッドER室1室が整備され、救急医、外傷外科医、放射線科が連携して治療にあたっています。
ハイブリッドER室は、脳卒中や大怪我で運ばれてきた患者さんの検査と治療をオールインワンで行えるため、検査室や手術室に移動する必要がありません。迅速に治療できる上に移動に伴うリスクが避けられるのです。
IVRも私たちの強力な武器です。脳梗塞やくも膜下出血の治療だけではなく、骨盤骨折による動脈損傷を見つけて止血するなど、大怪我の治療で力を発揮します。救急科のIVR実施件数は、怪我(外傷)約250件/年、脳卒中約200件/年に上ります。
近藤 浩史
放射線科 教授
こんどう・ひろし/1997年岐阜大学医学部卒。同大臨床准教授を経て2017年より現職。
IVRは画像下治療とも呼ばれ、エックス線やCT、超音波などの画像診断装置で体の中を透かして見ながらカテーテル等を入れ、病変部を治す治療法です。さまざまな病気や怪我に対して用いられ、当院は外傷などの出血に対する緊急IVRを数多く行っています。
一方で、全身の血管に異常(血管奇形)が生じるために鼻血などの出血症状がおこるオスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症。HHT)、内臓動脈瘤、門脈圧亢進症、リンパ漏などの治療にも力を入れ、そこでもIVRは強力な武器です。指定難病のオスラー病については肺動静脈奇形の治療を行っており、遺伝カウンセリングにも取り組んでいます。肺動静脈奇形が疑われた場合はかかりつけ医を介してご相談ください。
他にも、産婦人科領域のIVRやがん治療のIVRなど多岐にわたるIVRを行っています。
山本 真由
放射線科 講師
やまもと・まさよし/2001年防衛医科大学校卒。防衛医科大学校病院、藤沢市民病院等を経て2018年より現職。
IVRは、血管だけでなくリンパ管の病気にも有効な治療法です。血管の病気の中でも、門脈圧亢進症は約8割が肝硬変を原因として起こり、大量の腹水が溜まります。食事療法やお薬で改善しない場合はIVRが選択肢となり、当院でも実施していますが、難治性の腹水に対しては、門脈と肝静脈をつなぐ経頸静脈的肝内門脈体循環シャント形成術(TIPS)を自由診療で提供しています。
リンパ漏は、リンパ管の中を流れるリンパ液が漏れてしまう病気です。手術をきっかけに起こることが多いものの、原因不明のこともあります。ミルク色のリンパ液が1日600~1000㎖も胸にたまって乳び胸水になったり、膣から漏れたりして日常生活に困難が生じますが、リンパ管にカテーテルを挿入し、漏れているところを探し出して塞ぐIVRにより症状が改善します。
これらの病気で苦しんでいる患者さんに向け、手を差し伸べることが私たちの使命だと考え、日々治療に取り組んでいます。
帝京大学医学部附属病院
〒173-8606 東京都板橋区加賀2-11-1
TEL.03-3964-1211
https://www.teikyo-hospital.jp/