国立がん研究センター東病院

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国立がん研究センター東病院 ロゴ 国立がん研究センター東病院ゲノムなど先端医療を国際的にリード
新しい治療に結びつく治験も多数実施

本年30周年を迎える同院のミッションは、「世界最高のがん医療の提供」と「世界レベルの新しい医療の創出」。現時点で最新とされる治療やケアの実践。そして新しい検査や治療法の開発などでもトップを走る。

大津 敦

院長
大津 敦

おおつ・あつし/1983年、東北大学医学部卒業。86年国立がんセンター入職後、92年東病院開院時からのメンバー。2012年 早期・探索臨床研究センター長等を経て16年より現職。



創薬、がんゲノム医療の最新プロジェクト

 新しい薬を誕生させるために行われる「治験」の中でも、ファースト・イン・ヒューマンと言われる第Ⅰ相試験を国内で最も多く手がけるのが同院だ。21年からはiPS細胞を用いた新しいがん免疫細胞療法の治験も開始している。
 大津敦院長は、「標準治療が効かなくなっても治験に参加できる可能性はあります。そのチャンスをできるだけ多くの患者さんに提供し、有効な治療薬の開発、普及につなげたい」と話す。
 重点的な取り組みの1つが、がんゲノム医療の推進プロジェクト「SCRUM-Japan(スクラムジャパン)」である。
「現在一般的に行われているがん遺伝子パネル検査では分からない遺伝子変異を最先端の検査技術で調べ、治療の難しい患者さんに対して個々に最適な治療を提供したり、新薬の治験への参加を可能にしたりしています。2015年の開始以来多くの患者さんが参加し、11の治療薬、9つの診断薬の承認を実現しました」
 スクラムジャパンは産学連携の全国的プロジェクトで世界的にも規模が大きく、アジア諸国にも展開している。また同院には、世界全体のゲノム医療開発の中心として活動しているスタッフもいる。
 他にも、リキッドバイオプシーによるがん個別化医療を目指す「CIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)」を20年に立ち上げた。「リキッドバイオプシー」とは、血液検査で行えるがんゲノム診断のこと。すでに約1万人の患者さんが参加している。リキッドバイオプシーの進歩は目覚ましく、手術後の再発をより早く発見する検査としても有用だという。
「ゲノム医療はがん治療を大きく変えます。国際的ながんゲノム医療のプラットフォーム構築も開始し、オールグローバルの一員としてこれからも力を尽くします」と、大津院長は語る。

低侵襲治療やAIによる手術システムの開発も

 同院は日本で初めて(世界では2番目に)陽子線治療を開始し、強度変調放射線治療(IMRT)など高精度の放射線治療を提供する。また、腹腔鏡手術などに早くから取り組み、現在は手術支援ロボット2台を有するなど、低侵襲手術でも日本を牽引してきた。新しい医療機器の開発にも産学連携で取り組み、AIによる手術ナビゲーションシステムの開発が進む。遠隔医療連携協定を締結した山形県鶴岡市立荘内病院と遠隔地からの手術支援も計画している。
「患者支援にも力を入れ、レディースセンターやサポーティブケアセンターを設置する他、アピアランス(外見)ケアにも取り組んでいます。22年7月には敷地内に東病院連携宿泊施設がオープンする予定であり、患者会の皆様にも多数の意見を聞きながらより快適な環境で先進的な医療を提供できる体制が整います。本年30周年を迎え、これからも人と人とのつながりを大切に、よい医療を不安なく受けられる病院であり続けたいと思っています」
と、大津院長は締めくくった。

ゲノム医療開発の中心として活動しているスタッフ

データで見る東病院(2020年度)


頭頸部がん

チーム医療で患者さんの命と機能を守る


松浦 一登

頭頸部外科 科長
松浦 一登
まつうら・かずと/1990年東北大学医学部卒。宮城県立がんセンターを経て2019年より現職。


 頭頸部外科では「患者さんのために、少しでもより良い医療を提供する」を理念に、機能温存手術、低侵襲手術、難治がんの治療に力を入れています。内視鏡手術も早くから導入し、実績を積んできました。2020年の手術591件のうち約100件が内視鏡手術です。実施施設が限られる内視鏡補助下甲状腺手術も19年から行っています。欠損した部分に他のところから皮膚や筋肉、骨などを移植する遊離移植組織再建術は、国内屈指の件数です。
 これらの治療を、頭頸部内科や形成外科、放射線各科、精神腫瘍科など多くの診療科と連携して提供し、治療後の機能回復や社会復帰は多職種のチーム医療で取り組んでいます。
 当院の重要な役割の1つは新しい治療法の普及です。21年保険適用の「頭頸部イルミノックス治療」は、国内のトップランナーとして普及と共に適応拡大を目指しています。また、より優れた機能温存手術や低侵襲手術、手術の支持療法、高齢者に対する適切な治療選択ツールなどを開発中です。患者さんの価値観やQOL(生活の質)を大切に、退院後の生活も見据えた命と機能を守る総合的医療を実践しています。

豊富な症例数を誇る頭頸部外科チーム

豊富な症例数を誇る頭頸部外科チーム

膵臓がん

進化した膵臓がん治療をチームの力で提供


池田 公史

肝胆膵内科 科長・通院治療センター長
池田 公史
いけだ・まさふみ/1994年熊本大学医学部卒。国立がんセンター中央病院等を経て2010年より同院。


 当科の方針は、新しい薬の開発に取り組み、臨床試験や早期開発治験など、いち早く患者さんに届ける道筋をつくることです。また、確立された治療を最大限の効果が得られるように、副作用を徹底してマネジメントしながら提供しています。がんの情報が氾濫する今、迷うことも多いようですが、適切な治療を選んでいただくためにセカンドオピニオンの提供にも力を入れています。
 膵臓がんの治療成績は、有効な治療薬が複数登場したことにより向上しました。重要なのは、患者さんの病状や体力を評価して最適な薬を選び、副作用を最小限に抑える支持療法をきめ細かく調整することです。こうした個別化治療にはチーム医療が不可欠です。医師のみならず多職種とも連携して、最善の医療を提供しています。また、肝胆膵外科とも密接に連携し、手術可能な場合は最適なタイミングで実施しています。外来化学療法を行う通院治療センターでは、専門性の高い薬剤師や看護師が患者さんの小さな悩みもすくい取って支援しており、副作用の出やすい薬をマネジメントする専門チームのノウハウを全国にも広げています。

国内有数の通院治療センター

国内有数の通院治療センター

早期開発治験

国内外の最新の治験薬をいち早く患者さんに届ける


土井 俊彦

先端医療科 科長・副院長(研究担当)・消化器内科
土井 俊彦
どい・としひこ/1989年岡山大学医学部卒。2002年より同院。


 先端医療科は、治験の中でも第Ⅰ相試験を中心におこなっている診療科です。治験は、第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相という過程を踏み、安全性と効果(有効性)が証明されると、一般の患者さんに投与できる医薬品として認可されます。
 第Ⅰ相試験はがんの種類を限定せずに行われることが多く、当院では頭頸部、肺、消化器、肝胆膵、婦人科、泌尿器のほか、血液がんや肉腫など幅広いがんの患者さんに治験に参加していただいています。
 国立がん研究センター中央病院(築地)とも連携し、国内外の企業が開発する第Ⅰ相試験に加え、大学等が開発したアカデミア発薬剤の第Ⅰ相試験も行っています。その一例が、京都大学iPS細胞研究所と協力し、昨年11月に始めたiPS細胞由来ナチュラルキラー細胞を用いた卵巣がん治療です。
 当院は国内で実施される第Ⅰ相試験の9割以上に関わっており、アジアトップクラスの実績を有し、米国のがん専門病院にも引けを取りません。
 治験情報をいち早く患者さんに届ける仕組みづくりにも取り組み、将来は当院から遠い地域でも近隣病院と連携して最新の治験や治療を受けられるようにすることを目指しています。

治療機会を最大化する医療を届けたい

治療機会を最大化する医療を届けたい

ゲノム医療

がん遺伝子診療を総合的にサポート


桑田 健

遺伝子診療部門 部門長
桑田 健
くわた・たけし/1991年群馬大学医学部卒。北里大学医学部病理学教室等を経て2020年より現職。


 遺伝子診療部門は、がん患者さんとご家族に対して、遺伝子診療の総合的なサポートと管理を行う部門です。
 がんの発生には遺伝子の変異が関わっています。がんゲノム医療とは、がんに関わる多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子の変異に合う薬を選択するがん治療のことで、究極の個別化医療と言われています。そのために用いられるのが「がん遺伝子パネル検査」です。がん遺伝子パネル検査の結果はがんの専門家からなるエキスパートパネルで検討され、治療薬に到達できる確率は一般的に10~20%とされています。
 がんゲノム医療中核拠点病院として、当院がこれまでに行った保険診療のがん遺伝子パネル検査でのエキスパートパネルは合計1144件です(2021年12月28日現在)。 生まれ持った遺伝子の個人差が原因で起こるがんの検査や治療、遺伝カウンセリング、さらには国内外の治験情報を迅速に集め、次世代のパネル検査を用いて開発中の薬を治療に結びつける研究と、その結果をデータベース化して一般臨床への道を開くことなどにも力を入れています。よりよい医療を届けたいという強い思いが、当院の幅広いがん遺伝子診療を支えています。

専門家が患者さん家族の不安に寄り添う

専門家が患者さん家族の不安に寄り添う

HOSPITAL DATA

国立がん研究センター東病院

国立がん研究センター東病院
〒277-8577 千葉県柏市柏の葉6-5-1
TEL.04-7133-1111(代)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/


診療科目/頭頸部外科、頭頸部内科、形成外科、乳腺外科、腫瘍内科、呼吸器外科、呼吸器内科、食道外科、胃外科、大腸外科、消化管内科、消化管内視鏡科、肝胆膵外科、肝胆膵内科、泌尿器・後腹膜腫瘍科、婦人科、骨軟部腫瘍科、リハビリテーション科、血液腫瘍科、小児腫瘍科、総合内科、歯科、麻酔科(山本弘之)、集中治療科、緩和医療科、精神腫瘍科、放射線診断科、放射線治療科、病理・臨床検査科、先端医療科、感染症科、脳神経外科、皮膚科、眼科