先進医療の世界的拠点へ
がんの放射線治療の中でも、最も効果が高いとされる重粒子線治療の専用施設が山形大学医学部附属病院に完成した。保険適用となっている前立腺がんへの照射を開始しており、初年度ながら350人もの患者が来院している。
山形大学教授
理事・副学長・センター長
根本 建二
ねもと・けんじ/1982年東北大学卒業。2006年山形大学教授、2016年~2020年3月同大医学部附属病院長。2020年12月から現職。
山形大学医学部附属病院は、個々の患者に適した先進医療の開発・導入を進めており、2019年には「がんゲノム医療拠点病院」に選ばれている。さらに同院に連結する専門機関として「東日本重粒子センター」が完成し、2021年2月から治療を開始した。
「がんの標準治療には手術、抗がん剤、放射線があり、このうち放射線には一般的にエックス線が使われますが、がん周辺の正常組織にも照射されてしまうため、ダメージが残ります。その点、陽子線や重粒子線は病巣をピンポイントで狙い撃ちできる。副作用がほとんどなく、照射回数も少なく済むなど、患者さんにとってメリットの大きい治療法です」と同センター長の根本建二教授は話す。
陽子線治療では水素イオン、重粒子線治療では炭素イオンが使われるが、その質量差は12倍。それだけ重粒子線は破壊力が大きく、特にリスクの高いがんに適しているという。
「現在治療しているのは、保険適用となっている前立腺がんのみですが、初年度(2021年4月~22年3月)で350人を予定。うち約200人の治療が終了し、みなさん順調に回復されています」
重粒子線治療を行う医療機関は、国内で6か所あるがすべて関東以西だった。山形大学医学部では2004年から構想していたが、震災で一時中断し、2017年に着工。患者は県内が8割だが、県外の割合を高めることを当面の目標とする。
「今後は、重粒子線治療が保険適用になるがんの種類が増えることが期待されておりますので、がん治療の選択肢として多くの方に検討していただけるように、しっかりと実績を積み重ねていきたいと思います。また、高度な放射線治療を実践的に学べる医学部として、学生の教育にもより一層力を入れる方針です」
(根本教授)
山形大学教授・副センター長
岩井 岳夫
重粒子線治療は医学と物理学が融合した技術であり、当センターでも医師10人と私を含め医学物理士6人が在籍。ほかに診療放射線技師や看護師、装置の運転・保守管理など多職種のスタッフが協力して、精度の高い放射線治療が行えるように万全を期しています。
当センターでは水平ビームで治療を行う固定照射室と、ビームの角度を自由に変えられる回転ガントリー照射室の計2室で治療を実施します。重粒子線治療用回転ガントリーは世界で3台目、国内では2台目となります。一般的な放射線治療で使われるエックス線や、陽子線治療では回転式ガントリーが普及していますが、重粒子線ではまだ少数。しかし、任意の角度から照射できる回転式の方が患者さんは楽な姿勢で治療を受けていただくことができます。
重粒子線治療の長所は、①強い破壊力によって効果が高いこと、②ピンポイント照射ができるので正常臓器のダメージが少ないこと、③短期間で治療できることです。前立腺がんならエックス線では36~40回が標準ですが、重粒子線では週4回を3週間、合計12回。治療費は160万円ですが、保険適用ですので高額療養費制度を使えば、自己負担は10万3000円(年収500万円の場合)で済みます。
そして、大学病院に連結していることも当センターの際立った特徴です。従来の重粒子線治療施設がサッカー場とすると、当センターでは体育館並みに小型化しています。これによって既存の大学病院の隣に建てることができたのです。このため、がんだけでなく、糖尿病や高血圧など複数の病気を持つ方にもフレキシブルに対応しています。
山形大学医学部東日本重粒子センター
〒990-9585 山形県山形市飯田西2-2-2
TEL.023-628-5404
https://www.id.yamagata-u.ac.jp/nhpb/