認知症治療特集

病院の実力2021 > 認知症治療特集

新井 平伊

[取材協力]
アルツクリニック東京院長
順天堂大学医学部名誉教授
日本老年精神医学会前理事長
新井 平伊

あらい・へいい/1984年順天堂大学大学院修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学大学院精神・行動科学教授などを経て、2018年にアルツクリニック東京を開院。近著に「脳寿命を延ばす」(文藝春秋)がある。

アルツハイマー型認知症の原因と新薬への期待

 認知症は、脳梗塞などの脳血管障害が引き起こすケースもありますが、7割近くはアルツハイマー病が原因の「アルツハイマー型認知症」です。このアルツハイマー型認知症は、アミロイドベータというタンパク質が脳内に蓄積されることによって発症し、やがて神経細胞が破壊されて、記憶や思考などの認知機能が低下し、不安、興奮、歩き回りなどの行動心理症状(BPSD)を起こしてしまいます。
 アルツハイマー型認知症の治療薬はこれまでも開発されてきましたが、いずれも対症療法的なものでした。ところが、2020年に登場した「アデュカヌマブ」は、病気の元となるアミロイドベータを除去するという画期的な薬剤。製造者はアメリカの製薬大手バイオジェンと日本のエーザイで、20年7月にアメリカ食品医薬品局に、続いて12月に日本の医薬品医療機器総合機構に承認申請を行いました。現在は審議中でアメリカでの結果発表は今年3月となっており、非常に注目されています。


経済的負担の大きい若年性認知症への対応

 アルツハイマー型認知症は70代、80代に多いのですが、65歳未満で発症することもあります。これを私は「若年性アルツハイマー病」と名付け、1999年に専門外来を開設しました。
 高齢者は、そのほとんどがリタイアしていますから、認知症になっても家族は受け入れやすいでしょう。しかし、若年性アルツハイマー病の患者は40~50代の働き盛りが多いため、経済的な負担が大問題となります。ですが、認知症になっても、その後は15~20年かけてゆっくりと進行していくので、前半部分では自分で判断できますし、仕事も可能。各種の公的支援制度もありますから、認知症になったとしても悲観的にならずに、その後の人生を充実させる方法を医師と一緒に考えてほしいです。
 高齢者でも若年性の認知症でも、早期発見が重要なのは言うまでもありません。単純な物忘れではなく、大切なアポイントを忘れてしまうなど、いつもと異なる変化を感じたら、専門医を訪ねていただきたいですね。まずは、かかりつけ医に紹介してもらうのが一番ですが、日本認知症学会や日本老年精神医学会のホームページでも専門医を紹介しているので、チェックしてみてください。

秋山 治彦

[取材協力]
横浜市脳卒中・神経脊椎センター
臨床研究部部長
日本認知症学会前理事長
秋山 治彦

あきやま・はるひこ/1980年京都大学医学部卒業。医学博士。神経内科医。専門分野は認知症、軽度認知障害、アルツハイマー病、レビー小体認知症。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学客員教員、東京都精神医学総合研究所(現・東京都医学総合研究所)副参事研究員などを経て、2016年から現職。

「共生と予防」をテーマにした認知症施策がスタート

 日本の認知症対策は、2012年に策定された「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)に始まり、15年に「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」に改定され、これをベースにした「認知症施策推進大綱」(以下、大綱)が2019年に閣議決定されました。これまでとの大きな違いは、オレンジプランは厚生労働省が中心でしたが、新大綱には経済産業省や国土国交通省、総務省などの関連省庁が横断的に参画していることです。
 この大綱のテーマは「共生と予防」。共生とは認知症の人とその家族が地域社会の中で安心して生活できる環境をつくることです。たとえば、買い物をする時は最後にレジを通りますが、近年はスマホを使うなどスピーディーになっており、認知機能が低下した人には負担です。そこで、「スローレジ」という、ゆっくり会計できる仕組みを導入する店が増えてきました。
 予防は「病気にならないようにすること」と思われがちですが、発病後に進行を遅らせるのも予防です。認知症になってもやれることがたくさんあります。メモや手帳を使って記憶低下を補うことができます。体操教室など様々な活動に参加して社会との繋がりを維持している人は、昼と夜のリズムを保ち、元気で自立した生活を長く続けられることが多いようです。コツは、その時々の認知機能に合った無理のない内容の活動を続けることです。
 周囲の人達の接し方も大きく影響します。徘徊は困った症状と捉えられがちですが、家を居心地が悪い場所だと感じているために起きる事もあります。家が本人にとって快適な場所になるように工夫することで、徘徊だけでなく、不安や興奮なども減らすことができるかも知れません。本人、家族、地域の人達、皆が認知症のことをよく知ることが、共生の第一歩になります。
 世界的にも高齢化に伴い認知症が増加しています。日本は高齢化の最先進国であり、認知症との共生という点でモデルとなることを期待されています。大綱の取り組みを一つずつ実現していくことが重要になるでしょう。

医療法人光洋会 三芳病院

福島脳神経外科・内科クリニック

たかつきクリニック 認知症疾患医療センター

医療法人 新成医会 みどり病院


医療法人社団 弘仁会 魚津緑ヶ丘病院