日本人の死因として、がんに次ぐ循環器疾患。帝京大学医学部附属病院の循環器内科では2009年に循環器センターを開設以来、心臓血管外科と密接に連携・協力して、患者にとって最適な治療の提供に注力している。特に近年は、構造的心疾患(SHD)に対する低侵襲なカテーテル治療に意欲的に取り組み、実績も目覚ましい。その様子を、循環器内科長の上妻謙教授に伺った。
循環器内科 科長・教授
循環器センター センター長
上妻 謙
こうづま・けん/1991年東北大学医学部卒。2013年帝京大学医学部内科学講座教授に就任。15年より附属病院循環器センター長、心臓リハビリテーションセンター長を兼務。専門は、冠動脈疾患、心血管カテーテル治療。
高度救命救急センターを持つ当院では、3次救急の心疾患にも迅速に対応してきましたが、コロナ禍においても、専用の隔離病室を設けて動線を完全に分けて、感染の疑われる患者さんの救急搬送を受け入れ。心不全の場合には、肺の陰影など、新型コロナウイルス感染症と似た症状が起きやすいため、特に万全を期しています。
心臓血管外科とは、重症の心不全、心筋梗塞や大動脈解離に対応するCICU12床と後方支援的に緩和ケアを行うPCU26床を共有して診療にあたり、外科手術でも内科的治療でも、患者さんのニーズや安全性に即して最適な治療を選んでいただける体制を構築しています。
循環器内科におけるモットーは、最先端で患者さんに有用と思われる治療は積極的に取り入れ、安心かつ安全な医療を提供すること。できる限り最先端の技術や知見を取り入れることで昨今、高齢化の傾向にある循環器疾患の患者さんが、負担少なく検査・治療できることを何よりも重視しています。また、心臓リハビリテーションで治療後を含めたケアを、日常的動作のプログラムや薬剤・栄養指導、生活相談などにより外来で行っています。
心疾患治療においては、神の手を持つ1 人の名医よりも、進歩の目覚ましい最新の医療技術にキャッチアップして協力的・意欲的に取り組む多職種のチーム医療が重要な時代となっています。当院でもその到来に備えて、数年前から優秀な人材を集めてきた成果が近年、花開いています。負担の少ないカテーテル治療では特に最新のものを積極的に取り入れ、習熟度を深めていますし、超音波やCT、MRIなど画像診断でも経験豊富な専門的スタッフをそろえ、スムーズかつ迅速な治療に貢献。また、病棟では2チーム制により、複数の目で患者さんを見守れる体制とし、毎朝のカンファレンス等で情報共有も万全です。
渡邊 雄介
循環器内科 准教授
わたなべ・ゆうすけ/2003年筑波大学医学専門学群卒。榊原記念病院、パリ留学を経て、13年帝京大学医学部附属病院に着任、21年から現職。
加齢や動脈硬化により大動脈弁が狭くなる、大動脈弁狭窄症は進行すると心不全など、命に関わります。通常は胸を開いて心臓を停止させ、弁置換を行いますが、高齢や持病のある方には、カテーテル経由で人工弁の植え込みを行う「経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)」なら人工心肺も不要で、負担少なく治療が可能です。当院では、14年2月にTAVIを開始して、年間150例近く、総計700例以上の実績を誇ります。紹介から手術日まで1週間から遅くとも3週間以内と、迅速な対応を重視。治療時間も通常は1~2時間のところ、当院では私がTAVIプロクター(導入時指導者)として経験豊富なこともあり、平均20~30分と迅速さが特長です。
構造的心疾患へのカテーテル治療に意欲的な当院では、日本で19年から始まったウォッチマンというデバイスによる「経皮的左心耳閉鎖術」も実施。心房細動の方に、血栓を形成しやすい左心耳をふさぐことで、抗凝固薬の内服なしに脳梗塞を予防します。
片岡 明久
循環器内科 講師
かたおか・あきひさ/2003年高知医科大学卒。11年千葉大学大学院卒。榊原記念病院、米国留学を経て、14年から現職。
心臓に四つある血液の逆流を防ぐ弁の一つがうまく閉じなくなる「僧帽弁閉鎖不全症」に対し、カテーテルを入れて、クリップ状の器具で弁を挟む治療が「マイトラクリップ」です。従来のように胸を開けて、弁の修理や置換を行う必要がないため、手術困難な80代以上の高齢者や低心機能症例、ハイリスクな方も治療可能です。
当院では、日本で保険適用となった18年4月から施設基準を満たして、同治療を開始。年間60例ペースと都内随一、全国でも5~6番目の実績です。当院の特長として、カテーテルで施術する医師と、超音波画像を見ながらガイドする医師の良好な連携と、麻酔科医や看護師、放射線技師、臨床工学技士のチーム力があります。また、事前に患者さんの心臓や血管の形状を把握し、シミュレーションを重ねて詳細な手術計画書を作成するため、施術時間も著しく短縮化。迅速かつ安全な治療を可能としています。術後はすぐ息切れの改善や手足の温かみなどが感じられ、患者さんにも好評です。
渡 雄至
循環器内科 講師
わたり・ゆうじ/2002年帝京大学医学部卒。08年同大学院博士課程卒。横須賀共済病院等を経て、17年から現職。
心房細動は、心房が細かく震え、脈が乱れる病気です。動悸、息切れ以外に無症状の場合も多く検診で偶然発見されることもあります。心房細動は脳梗塞や心不全を起こすリスクを高めるため、抗凝固薬や脈拍を調整する薬を内服して経過観察する必要があります。
カテーテルアブレーションは、心房細動根治の手術療法です。心房細動の原因となる異常信号を発する左心房内を高周波で焼灼します。当院では3Dマッピングを活用し、安全で精度の高い治療に努めています。
心房細動治療の選択肢にはこのように薬物療法と手術療法があります。患者さんの年齢や基礎疾患、生活背景、ご希望等を十分考慮してテーラーメイドの医療を心掛けています。適応があれば積極的にアブレーションを勧めていますが、手術は少し気が進まないという方には薬物療法でしばらく様子を診て、コントロールが困難な際に手術を考慮するということも可能です。
徐脈性不整脈には従来法に加えて、リードレスペースメーカーの導入も行っています。また致死性不整脈にはリードを心臓内へ植え込まない皮下植込み型除細動器(S-ICD) も積極的に使用しています。
紺野 久美子
循環器内科 講師
こんの・くみこ/2002年帝京大学医学部卒。08年同大学院卒。同内科学講座臨床助手、助手、助教を経て、16年から現職。
FFR‒CT解析は、冠動脈疾患患者さんに対する非侵襲的診断になります。撮影された冠動脈CT画像データから高性能コンピューターを用い、血管狭窄が心臓への血流に与える影響を解析します。この結果を用いることによって治療へのステップが明確化でき、不要な侵襲的検査を削減できることにもつながります。このFFR‒CTは、18年12月に保険適用となりましたが、検査を行うことができるのは全国でまだ126施設程度です。当院は、この検査を行う施設基準をクリアしており、早期から患者さんに負担をかけない診断方法として日々役立てています。また、当院では心臓リハビリテーションセンターを12年に開設しており、循環器内科・心臓外科疾患患者さんに対し、多職種の専門家がチームとして急性期から維持期まで一貫して心臓リハビリに取り組んでいます。近年は心臓リハビリとしての病診連携も強化し、患者さんの治療が途切れることなく、疾患の再発予防に務めています。
帝京大学医学部附属病院
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