
1982年東京大学医学部医学科卒業。84年同附属病院第三内科入局。89年ハーバード大学医学部留学。東京大学医学部循環器内科講師を経て、2001年千葉大学大学院循環器内科学教授、09年大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学教授、12年東京大学大学院医学系研究科循環器内科学教授、23年より国際医療福祉大学副学長、東京大学特任教授・名誉教授。
加藤
まず、10月11日を「LDLコレステロールの日」とした由来を教えてください。
島野
「LDL」を小文字にすると、「ldl」です。「l」は「1」、「d」は「0」と「1」に見えることから、「1011」で10月11日としました。
加藤
記念日の制定には、どのような背景があったのですか。
小室
ご存じのように、日本人の死因のトップはがんです。ところが、高齢者に限ると、がんと心筋梗塞や心不全、脳卒中といった循環器病で亡くなる方はほぼ同じになります※1。近年指摘される平均寿命と健康寿命の乖離も、その多くは循環器病に起因しています。ただし、循環器病は、がんとは異なりLDLコレステロールの管理などによって発症や進行を予防することができます※2-4。記念日を制定することで、国民の予防意識が高まればと思いました。
加藤
そもそもLDLコレステロールとはどのようなものでしょうか。また、なぜLDLコレステロール値は高くなるのでしょうか。
島野
よく悪玉コレステロールといわれますが、本来、血液中のLDLコレステロールは肝臓から全身の各組織にむけて供給される栄養としての重要な役割を担っています。ただそれが適正レベルであれば良いのですが、高い値が持続してしまうと、血管壁に取り込まれて動脈硬化の原因となってしまいます。LDLコレステロール値が高くなる要因としては、過食や動物性脂肪などの摂りすぎなどの生活習慣やホルモンバランス、体質などが挙げられます。
加藤
動脈硬化について、また、動脈硬化によって起こる疾患について、詳しくお聞かせください。
島野
動脈硬化とは、動脈の内壁が肥厚して硬くなる状態です。LDLコレステロールが高い状態が続くと、血管壁にコレステロールが沈着し、やがてプラークと呼ばれる塊のような隆起性の病変が内側にでき、血管内が狭くなり、血栓が生じて詰まりやすくなります。
小室
動脈は心臓から栄養や酸素を全身に運ぶ血管ですから、詰まったり、プラークが大きくなって破裂したりすると、その先の組織や臓器が機能しなくなります。心臓を養っている冠動脈が細くなれば狭心症に、詰まれば心筋梗塞になり、脳の血管が詰まると脳卒中になります。

出典:日本循環器協会ホームページから引用
1984年東京大学医学部医学科卒業、86年同附属病院第三内科入局。93年米国テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター分子遺伝学部に留学。以後、東京大学医学部糖尿病代謝内科、筑波大学臨床医学系内科、同大学院人間総合科学研究科などを経て、2011年より筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科 教授。

加藤
LDLコレステロールに由来する動脈硬化が、さまざまな循環器病の発症につながるということですね。予防のためには、LDLコレステロールの管理が重要だと思いますが、その管理目標値とは、どのようなものなのでしょうか。
島野
動脈硬化学会では140mg/dL以下を基準値としていますが、これは疫学に基づく統計的な目安です。管理目標値とは、動脈硬化による疾患を予防するための目標値です。みなさんの管理目標値は、みなさんが持っている様々な危険因子によってそれぞれ異なってきます。高血圧、糖尿病、内臓肥満、喫煙などの危険因子がある方は、ない方よりLDLコレステロールの目標を低めに設定しますし、心血管疾患を一度でも経験した方はさらに厳格な管理が必要です※5。
小室
心血管疾患や脳血管疾患などの循環器病は、二度三度と繰り返しやすいことが特徴です※3。しかも、再発すると重症化し、命にかかわります。ですから、再発させない二次予防としては、LDLコレステロールの管理目標値をより厳しく70mg/dL未満**に設定しています※6。
加藤
LDLコレステロールを管理目標値以下にするためには、どのような生活上の工夫や治療が必要ですか。
小室
基本は、コレステロールを多く含む食品を摂らない、肥満にならないよう体重をコントロールする、そのために運動するといった生活習慣の改善です。ですが、LDLコレステロール値が高いこと自体に不快な症状があるわけではなく、生活習慣を見直しても思うように数値が下がらないことがあります。ですから、患者さんがモチベーションを維持しにくいという問題があります。
島野
循環器病になった方は、何よりご自身が狭心痛を経験していますし、再発リスクや二次予防の重要性をなんども主治医から説明されますから真剣に受け止めてくれますが、予防となると難しいですよね。
小室
はい。でも、LDLコレステロールがきちんと管理目標値まで下がれば、プラークが小さくなるなど、動脈硬化の進行は明らかに抑えられます※7。ですから、ぜひ適宜循環器病を予防するためにLDLコレステロールの管理に努めていただきたいですね。
1995年ノバルティス ファーマ入社。メディカル部門で循環器を担当し、高血圧および糖尿病のマーケティング部門で経験を積んだ後、中枢神経領域事業部、呼吸器領域事業部などのビジネス推進に貢献。2022年より執行役員兼ジェネラルメディスンマーケティング 本部長に就任。

加藤
二次予防はもちろんですが、一次予防として早期に気づき、早期に治療をする必要はありますか。
小室
はい。動脈硬化というのは、LDLコレステロールの累積で起こります※8。つまり、LDLコレステロール値とその年月の掛け算によって、リスクは単調に増加します。早期に治療を開始し、LDLコレステロールを適切に管理することは非常に重要です。
加藤
今回、日本動脈硬化学会と日本循環器協会が連携し、「LDLコレステロールの日」が制定されました。将来に期待することをお聞かせください。
島野
「人は血管とともに老いる」といわれています。動脈硬化はさまざまな病気と深く関わっていますから、いろいろな学会や専門家の方々と協調し、予防啓発に取り組むことは大変有意義で重要なことだと思っています。一人ひとりが長く健やかでいること。これこそが、自分だけでなく家族や社会の幸せにつながるものだと考えています。
小室
生活習慣の欧米化や急速な高齢化により、国内における循環器病は増加傾向にあります。ですが、冒頭にもお話しましたように、循環器病は予防ができる疾患です。どうか「予防ができる」ということを前向きに捉えて、LDLコレステロールの管理に励んでいただけたらと思っています。