複雑化する課題をとらえ 福祉のフロンティアを切り開く

　今、日本の社会福祉が大きく変化しています。かつての福祉は、夫が外で働き、妻が家で育児や介護を担当する、といった家族のあり方を前提にしていました。しかし、ライフスタイルの多様化などにともなって、対象とする範囲も従来の福祉の枠組みでは、とらえきれなくなっています。その内容についても、従来の「生存・安全を確保する」だけにとどまらず、自己実現などの点も踏まえ、「本人の尊厳や自立を支援する」という方向に変わってきています。充実した福祉を実現するには、こうした新しい方向性に沿った制度・政策や、サービスの内容を考えていく必要があります。同時に、サービスを提供する組織の改革なども進めていかなければなりません。

　私の具体的な研究の進め方としては、まず現場に赴いて直接話を聞く。当事者や現場で働く人だけでなく、経営者にも話を聞き、時には一緒に勉強会、研究会をして、何が課題となっているかを把握します。その上で、既存のデータや全国的な調査を分析することによって、普遍的な実態を明確にしていきます。こうした実態を踏まえて、国の審議会や政策に係る研究会の委員として、制度づくりや政策立案にかかわることもあります。

　上智大学の社会福祉学科は、新しい福祉のフロンティアを切り開くことのできる人材の育成を目指しています。そのためには、現場に根ざした発想は欠かせませんし、経営学、政策・制度などへの理解も大切。そこで、「臨床面」と「制度・政策・管理・運営面」という二本の柱を中心としたカリキュラムが組まれています。

　「福祉経営論」の授業では、リーダーシップやモチベーションといった組織論の考え方を福祉経営に生かす方法を、演習を通じて学んでいきます。例えば、「組織の意思決定」の方法について理解する場合、まず、最近自分が行った意思決定について少人数で討論。その後、意思決定に深く関連する経営理論の解説を行います。こうしたプロセスを経ることで、理論をより身近に感じることができるわけです。

　ほかにも、医療政策や医療制度について、学生が自由に選んだテーマで議論するなど、ディスカッションには力を入れています。将来どんな職業に就くにしても、社会に出れば自分の考えを相手にしっかり伝える能力が欠かせない。そうした基盤となる力も、大学でしっかり身につけてほしいと考えています。

　社会福祉学は、私たちが直面している問題について、さまざまな学問の成果を取り入れながら解決策を見つけていくのが特徴です。ですから、経営学はもとより、経済学、法律学、社会学、心理学、倫理学など、領域を越えて知識を獲得する必要があります。この点で、他学部の授業を受講しやすい上智大学のシステムは、大きなメリットになるでしょう。また、本学は都心にあるので学外との接点ももちやすく、外国人の留学生も多い。こうした環境を積極的に活用してもらえたらと思います。

　社会福祉学は扱うテーマの幅が広い。海外の貧困問題に興味を持って、直接現地に飛び込む学生もいます。あるいは発達障害をもつ方を支援するために、その人の「作品」を発表するプロジェクトに関わる学生もいます。自分が福祉を学ぼうとした理由にフォーカスすれば、その収穫は、きっと豊かなものになるはずです。

　社会福祉学は、既存の社会や制度のあり方をより良いものにしていく助けとなるものです。社会全体、そして人類全体という広い視点で、「新しい福祉の姿」を追い求めましょう。