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- 伊藤 雄司 法学部 法律学科 教授
条文をどう解釈し、解決の道を探るか。それを自分で考えるのが法律学の魅力
- 伊藤 雄司
- 法学部 法律学科 教授
法律が分かれば、社会が分かる
社会の変化や時代の要請を踏まえて、新たに作られたり、見直されたりする法律。それを学び、研究することは、社会の仕組みの理解にもつながります。例えば、私が専門とする会社法の分野では、10年ほど前に、法制度上の大きな改革がなされ、M&A(企業の買収・合併)に関する規制が緩和されるなどしました。
これなどは、企業活動の国際化や競争の激化という実状をある面では反映した改正例。その内容を理解することで、産業界が何を求め、目指しているのか見えてくるでしょう。
法律の勉強というと、条文を読んだり、覚えたり……。そうしたことをイメージする人がいるかもしれません。しかし、より重要なのは条文がどのような背景のもとにつくられ、それが実際どのように解釈され、社会の事象に適用されているかを見極めることです。裁判所は、機械的に法律を運用し、物事の正否や善悪を判断しているわけではありません。そこには一つ一つの出来事に応じた、事実との格闘、つまり法解釈があります。それに目を向け、意味合いを考えたり、別の解釈を検討したりすることが、法律学の魅力といえるでしょう。
“判決の全文”を読むことの意味
そのためゼミで行う「判例研究」で、学生たちは“判決の全文”にしっかり目を通します。主要な裁判の概要をまとめた資料も存在しますが、それはあくまで他人の視点でまとめられたもの。判決文の中にある原告、被告それぞれの主張、また裁判所による事実認定などの中にこそ、新たな視点や解釈を見いだすヒントが隠れているのです。
例えば会社法がかかわる裁判には、「会社の経営権や報酬を巡る当事者間の仲違いがきっかけ」といったケースも少なくありません。言うまでもなく、そこには人間の感情があり、厳しい対立が存在します。それを抜きにして抽象的な議論を行ってもあまり価値はないでしょう。
もちろんどんな法律にも、それをどう解釈するか、主要な学説が存在します。確かにそれは、長い議論の積み重ねによって生み出された重要なものに違いありません。しかし、学生には「既存の解釈を疑ってみること」を勧めています。両者の対立を会社法という道具を使い、どう解決に導くか──。最終的には学説と同じ結論になったとしても、まずは自分の頭で考えてみることが大事。繰り返しになりますが、そうした“知的作業”こそが法律学の醍醐味なのです。
養われる、物事を究明する力
将来、法曹界に進む、進まないに関わらず、私たちはあらゆる法律のもとで、仕事をし、生活を営んでいくことになります。法律とは、私たちを縛り、押さえつける理不尽なもの。そんな印象を持っている人もいるかもしれませんが、法律学をきちんと学べば、それが基本的には合理性に支えられたものであることが理解できるはず。法に対するアレルギーや漠然とした不安はきっと解消されるでしょう。
そしてもう一つ、法律を学ぶことの具体的な効用として挙げられるのが、物事を究明する力の習得です。ゼミでの判例研究もそうですが、法律学の基本にあるのは徹底した調査。判決文や過去の事例、弁護士や学者の議論などを丹念に調べることから、すべてが始まります。
「自分なりの視点」と口で言うのは簡単ですが、それは単なる思いつきや直感とは違います。そこにはやはり確かな根拠がなければなりません。一つ一つ地道に事実を積み上げて、論理を構築していく作業は、決して簡単ではありませんが、そうした経験は将来どんな仕事や活動をするにしても、大きな助けになると思います。
- 伊藤 雄司(いとう・ゆうじ)
- 法学部 法律学科 教授
専門は商法・会社法。著書として、『事例で考える会社法』(有斐閣、共著)、『論点体系保険法(1)』(第一法規、共著)など。