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- 矢澤 達宏 外国語学部 ポルトガル語学科 教授
ポルトガル語圏の魅力を掘り下げ、他の人とは異なる視点を手に入れる
- 矢澤 達宏
- 外国語学部 ポルトガル語学科 教授
現在の課題を歴史から読み解く
私の研究テーマの一つはアフリカの政治・政治史で、特にアンゴラやモザンビークといったポルトガル語圏5ヵ国を中心に研究しています。
多くのアフリカ諸国では、形式上民主的な政治体制がとられていますが、実際は選挙で不正があったり、特定の候補に投票させるような誘導力、時には強制力が働いたりしています。その一因にもなっている根深い問題の一つが、民族間の対立です。これは旧ベルギー領の話ですが、ルワンダでは全人口の一割を超える人が民族間対立で虐殺されました。そうした対立の背後には、植民地時代、民族間の分断を意図的に進めるような統治政策がとられていたという歴史があります。現代の政治の問題も、そうした背景を抜きに考えていくことはできません。
もう一つの専門分野として、ブラジルの黒人史も研究しています。ブラジルでは先住民、支配層であった白人、そしてアフリカから奴隷貿易で連れてこられた黒人の子孫が多人種社会を形成しています。アフリカ系が人口に占める割合は米国より高く、奴隷制度の廃止後も差別を受けながら、サンバなどアフリカ由来の文化でブラジル社会に影響を与えてきました。彼らがルーツであるアフリカや、それに由来するアフロ系文化を自身の中でどう位置づけ、黒人運動を展開してきたかは、非常に興味深い問題です。
ステレオタイプと実像は異なる
学科では語学の授業に加え、上のようなテーマの講義も担当しています。アフリカもブラジルも、現地の実像は日本で我々が抱くイメージより幅が広い。当然ながら、アフリカにも前近代的な農村部もあれば先進的な都市もあります。
私がPKOの選挙監視員として行ったモザンビークの投票所は、林の中に建てられたバラックで、投票用紙も、字の読めない人のために候補者の顔写真も入れたかなり大きいものでした。
そうかと思えば、携帯電話などはかなり普及していて、都会ではテレビの受信や録画ができる機種が出ていたり、農村でも伝統的な衣装を身にまとった人が携帯で話をしているという状況がある。それを知って驚くか、当然と思うかは人それぞれですが、多くの人は「日本とは違う」というイメージを抱きがちだと思います。ですから授業では、問題の歴史的背景といった本質的な部分はもちろん、ステレオタイプとは異なる実像も伝えていければと考えています。
世界に広がるポルトガル語圏
ポルトガル語圏はヨーロッパ、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの一部と世界各地に広がっており、互いに影響を与え合いながら、独自の文化圏を形成しています。
上智大学のポルトガル語学科では、ブラジルの政治・外交、ポルトガルの社会事情、在日ブラジル人児童の教育問題、マカオの人々の民族性などなど、多彩な地域・分野の専門家が揃っており、学生同士の結束も強い。互いに高め合いながら、ポルトガル語圏の多様な魅力を存分に掘り下げていける環境が整っています。
ブラジルの経済成長に注目が集まり、リオデジャネイロ五輪なども含めて、ポルトガル語圏の存在感は高まっています。しかし、ヨーロッパと聞いて最初にポルトガルをイメージする人は多くはないでしょう。また、私が研究する分野は、ポルトガル語圏のなかでもある意味マイナーといっていい分野だと思います。
ただ、多くの人が目を向けないところに着目し、掘り下げていくことで、気がつけることもあります。大勢に流されず、独自の視点から自分の意見を発信していく。ポルトガル語学科に進む皆さんには、そうした視点も身につけられるよう、気概と自負をもって学んでほしいと思います。
- 矢澤 達宏(やざわ・たつひろ)
- 外国語学部 ポルトガル語学科 教授
研究対象はサブサハラアフリカ地域の政治・歴史、およびブラジルの黒人史・人種間関係。なかでもアフリカ・ラテンアメリカ間の歴史的関係の諸相を解き明かす課題にはライフワークとして挑んでいる。