教員が発信する上智の学び

どんなお化粧をしてきましたか?そんな問いから、人間が見えてくる

黒川 由紀子
総合人間科学部 心理学科 教授

すべてを経験してきた人生の先駆者

黒川 由紀子 総合人間科学部 心理学科 教授

 「高齢者の心理」と聞いても、若い皆さんには縁遠く感じられるかもしれません。しかし、幼少期、青年期、壮年期を生きてきた方々は、あらゆる世代の心を経験してきた、いわば「人生の先駆者」。かかわりをもつことで、生きる指針のヒントを吸収できる。そこに、高齢者の心理を研究する魅力があると思います。

 社会の高齢化が進み、時代が変化していくなかで、ロボット工学や建築学など、異なる分野と共同研究に取り組む機会も増えています。化粧品会社とのプロジェクトでは、高齢者の方に「どんな化粧をしてきたのか」「今後どんな化粧をしてみたいか」といったことをインタビューしました。認知症の方が、ある出来事やモノをきっかけにして、遠い昔の記憶を取り戻す。そんな話を聞いたことがあるかもしれません。こうしたアプローチを試みることで、その方をより深く理解し、現在抱えている不安や、何を望んでいるのかを読み解くヒントが得られます。

 また、最近は百貨店や航空会社などの企業から、「シニア層の心理や適切な対応法を知りたい」と、講演やコンサルテーションを依頼される機会も多くなりました。年配の方が快適に過ごせる社会やサービスとは、どのようなものか。今後もますます重要なテーマとなるに違いありません。

学びを深めるポイントは「リアリティ」

 臨床系から実験調査系まで。上智大学の心理学科では、4年間かけて、幅広い分野をしっかりと学んでいくことができます。一年生から始まる演習では、心理学の基本書を英語で読み、その内容についてグループでディスカッションを行います。たとえば検査法で、「風景構成法」という、画用紙に風景を描く技法を体得する際は、理論的背景、施行時の注意点を学び、実際に風景を描いてみる。描いた絵を専門的手法を用いて分析し、グループでディスカッションを行います。テーマ別の講義もあり、私が担当する「老年心理学」では、さまざまな現場で活躍する専門家に話をして頂いたり、認知症を扱った映画を教材にしたりと、「リアリティ」を重視した内容を心がけています。

 そしてゼミでは、身の回りで目にした高齢者の行動について観察し、議論するなど、学生の実体験も取り上げます。卒業論文は全員必須ですし、学ぶべきことはたくさんあって忙しい。そのぶん、やりがいも大きいのではないでしょうか。

熱中できるテーマを見つけるには

 私が学生の頃は、心理学の研究対象といえば子供や青年が中心でした。なぜ高齢者の心理を研究テーマに選んだかというと、何より「知りたい」という強い思いが湧き起こったからです。皆さんにも、「これをやらずにはいられない」というほど熱中できるテーマを、ぜひ見つけてほしい。今までとは違う場所に身を置き、いろいろな人と会ってみる。手がかりは、そうしたところにあると思います。

 学生時代は、失敗を重ね、それを糧にしていける時期でもあります。自分の殻に閉じこもらず、偶然のチャンスや縁なども生かしながら、興味のあるテーマをとことん追究していってください。

 その過程で疑問が出てきたら、教員に積極的にぶつけてみましょう。真剣な思いがあれば、たとえ未熟な疑問であっても、私たちは真摯に向き合うつもりです。

 心理学は、人間のあらゆる行動にかかわる学問です。これをしっかり理解しておけば、どのような道に進んだとしても、きっとあなたの助けとなるはずです。

黒川 由紀子 総合人間科学部 心理学科 教授
黒川 由紀子(くろかわ・ゆきこ)
総合人間科学部 心理学科 教授

老年期の臨床心理学を専門とし、特に認知症の人や家族への心理療法、心理支援について研究している。主著は『高齢者と心理臨床—衣・食・住をめぐって—』、『回想法—高齢者の心理療法—』(誠信書房)、『認知症と診断されたあなたへ』(医学書院)等。

ソフィアオンライン 上智大学の研究・教育を毎月発信

最新記事

古谷 有美 TBSアナウンサー

上智人が語る

1000人に1人を目指す――遠大な目標も考え方ひとつで

音 好宏 文学部 新聞学科 教授

教員の視点

政界の「スクープ」はなぜ週刊誌から? ――メディアの役割分担と政治的中立

エミール・イルマズさん 理工学専攻グリーンサイエンス・エンジニアリング領域(博士前期課程1年)

在学生の活躍レポート

30歳以下の若者が集うY7サミットに参加

2017年度春期講座の講座情報を公開しました!

開かれた上智

2017年度春期講座の講座情報を公開しました!

“文学部新聞学科の学生による2作品が「TVF2017アワード」を受賞しました

上智大学ダイジェスト

文学部新聞学科の学生による2作品が「TVF2017アワード」を受賞しました