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- 南部 伸孝 理工学部 物質生命理工学科 教授
見えない世界を見えるようにする そこから新しい科学が誕生する
- 南部 伸孝
- 理工学部 物質生命理工学科 教授
世界に先駆け仮想実験
目に見えないミクロの化学現象を、あたかも目に見えるようにシミュレーションする。私たちの研究室では「環境」「生命」「物質」の各フィールドで、 高度なコンピュータ計算を用いた独自の仮想実験に取り組んでいます。例えば温室効果ガスの一つといわれ、排気ガスなどに含まれるN2O(亜酸化窒素)。 その大気中の総量を把握するために「大気における同位体濃縮現象」を解明したり、また抗がん剤の有効性の解析などにも利用される「蛍光タグの分子設計」を構築したり、 さらにマテリアル分野の「カーボンナノチューブによる水素吸蔵」では、C60フラーレンに水素原子を詰め込むという仮想実験を、世界に先駆け成功させています。
「時空を超える」体験を
私は学生時代から理論化学の魅力に惹かれ、コンピュータを先駆的に活用してきました。その後スーパーコンピュータの登場により、 環境予測、化学反応 解析、物質モデル計算などが発展。原子・分子の世界を再現し、予想することは、まさに「時空を超える」経験といえます。 例えば10-14secや10-8cmなどの数値で表現される水素分子の世界は、私たちが認知できる日常と大きくかけ離れており、スーパーコンピュータによって初めて体験できる世界です。 量子化学や統計熱力学にもとづく理論に固有の物理定数を与え、独自の計算手法を盛り込みながら、「世界初のビジュアライゼーション」を実現する−。 すでにコンピュータシミュレーションが実験化学を先行している分野もあり、研究領域は加速度的に広がりつつあります。
30年後に花開く研究もある
ところで、皆さんもご存じの「太陽光発電パネル」や「有機EL」。すでに実用化も進んでおり、いまではずいぶん身近なものとなっています。 しかしこれらの最新技術についても、もともとは数十年前に理論の研究者によって基礎的な反応機構は解明されているのです。 私は、こうしたことが理論化学のおもしろさの一つだと思います。自分のふとしたひらめきが、20年、30年経って、社会を変えるような技術や製品につながることもあるのです。 理工学の分野においては、もちろん目の前にある課題を解決していく研究も欠かせません。ただ一方で、「何かの役に立つか分からないけど、どうも変だ……」 というひっかかりをとことん追究していくことも忘れてはいけない。私自身、コンピュータシミュレーションという技術を使い、将来、「原点は南部のあの研究か」 といわれるような仕事をしたいと思っています。
基礎から応用まで幅広く
物質生命理工学科の特徴を一言でいえば、それは「基礎から応用まで」幅広く学べることです。特に上智大学の理工学では「複合知」をキーワードに創造的な能力育成を目指しており、 専門の枠にとらわれない、学科、さらには学部横断的な学びにも魅力があります。幅広い学問体系に触れるなかで自分の可能性を探る。そして「やりたいこと」を見つける。 私たちの研究室も、まったく新しい科学を生み出すべく、日々“不思議”の世界を探索しています。見えないものを見えるようにする−。 新たな視点にチャレンジする人を待っています。
- 南部 伸孝(なんぶ・しんこう)
- 理工学部 物質生命理工学科 教授
研究分野は理論化学および計算化学。最近の著書は“Future Perspectives of Nonadiabatic Chemical Dynamics,” Chemical Science(RSC Pub.), 1, 663。 スーパーコンピュータを駆使し、未知な現象の解明を目指す。