教員が発信する上智の学び

矛盾・退屈を恐れない、ゲーテの言葉にはあらゆる事象に通ずる真理がある

髙橋 明彦
文学部 ドイツ文学科 教授

共感をもちながらゲーテを読む

文学部 ドイツ文学科 教授

 ゲーテの作品には「どうすれば人生を気持ちよく生きられるのか」という問いにつながるヒントが散りばめられているので、難しく読むのではなく、そうしたエッセンスを感じながら作品を楽しむことを目指しています。
伝統的なドイツ文学研究の場では、ゲーテは教養主義的なイメージをもたれることもありますが、最近は少し見方が変わってきました。ゲーテはとても女性にもてたイメージがありますが、実は若い頃は不毛な恋愛も多いし、オドオドした面もあって、すごく共感のもてる人なのです。学生にそういうゲーテの一面もなるべく知ってほしいですね。

矛盾を恐れないゲーテの魅力

 ゲーテのように、さまざまな分野で活躍して、詩や小説などの表現活動、哲学的思想家や自然科学者としても活躍していると、必然的に首尾一貫しないところが出てきてしまうものです。ゲーテは、そういう矛盾を隠そうとしたり、つじつまを合わせようとしたりしません。矛盾は矛盾のまま、そのまま押し出していく。我々には、なかなかできないことです。 矛盾はどうしても隠したいと考えてしまいますから。また、ゲーテは退屈も恐れません。普通の作家は、読者を退屈させないために、メッセージを織り込んだり表現にアクセントをつけるなど、いろいろ工夫をするものです。ところが、ゲーテは、堂々と言いたい言葉だけを並べています。しかし、それを読むと、なぜか得るものが多いのです。 実は、退屈を恐れないことは、人生においてもとても大切なことだと気付かせてくれます。

人間は努力する限り迷うもの

 『ファウスト』第一部の天上の序曲で、誘惑の悪魔メフィストフェレスと、主(神)がファウスト博士の魂を悪の道に引きずり込めるかどうかの賭けをする場面があります。その賭けを受け入れた主の言葉に「人間は努力する限り迷うものです。だけど良い人間は、どんな迷い道に踏み込んでも正しい道を決して忘れない」という言葉があります。 ここでいう良い人間の定義は難しく、正しいとか、道徳的な人間というだけではありません。
うまく説明できませんが、私たちが日常的に「あの人って良い人だよね」というときのニュアンスに近いものです。この台詞には、あらゆる事象に通じる真理が含まれていると同時に、決してそれは難しくなく、私たちみんなの生き方にリンクしているのだと気付かせてくれるのです。

ドイツ文学を研究するための方法論

 教員によって方法論は異なるでしょうが、私はテキストを忠実に正しく読むことだと考えています。
別な言い方をすると、テキストと恋人のように寄り添うことが最も重要です。
それから、注釈、言葉にこだわること。大げさにいうなら、1年がかりでひとつの言葉の意味を明らかにするくらい、徹底して言葉にこだわることが重要です。
我々の学問はフィロロギー(文献学)と言いますが、文献学という学問は、言葉を愛する、ロゴスを愛することを第一とする学問ですから、一語一語を正確にこだわって読むことが、方法論なき方法論といえるのではないでしょうか。

文学部 ドイツ文学科 教授
髙橋 明彦(たかはし・あきひこ)
文学部 ドイツ文学科 教授

ゲーテ、ニーチェを中心にドイツ古典文学のテクストに取り組んでいます。著書『ゲーテ「イタリア紀行」の光と翳』(2011年、青土社)

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