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- 田渕 六郎 総合人間科学部 社会学科 教授
常識を疑うことから、社会学は始まる
- 田渕 六郎
- 総合人間科学部 社会学科 教授
「当たり前」を疑うことが社会学の原点
社会で起きている物事に対し、「常識」とは違う視点から考える。これが社会学の特徴だと思います。
私の専門である家族を例に取ると、「家族とはこういうものだ」という「常識」を私たちは持ちがちです。家族を社会学的に考察するためには、そうした「常識」を疑うこと、問い直すことが求められます。
都市に住む私たちは、家族を「都市的」な家族のイメージで捉えがちですが、実際の家族のあり方は多様です。たとえば、誰が誰と一緒に住んでいるかをみても、地域ごとの差は実に大きい。都道府県別にみれば、高齢者が子ども夫婦と同居する割合は山形県では40%ほどに及ぶ一方、鹿児島県では5%程度で、東京都を下回っています。こうした違いは「都市化の程度」などでは説明できません。ではなぜこうした地域差が見られるのか。こうした問いを解き明かしていくことで、「家族」について私たちが当たり前と思っている「常識」が問い直されることになります。
テーマを掘り下げることで「社会」に迫る
社会学は、統計的データの分析やフィールドワーク、インタビューなどをもとに、歴史的比較や国際比較も行いながら、社会現象を探っていきます。そのとき大切なのは、世間で当たり前とされているイメージに惑わされず、信頼できるデータにもとづいて、社会現象の本質を見極めていくことです。社会学はマスメディアの見方などからも一歩距離を置いて、独自の視点から社会現象にアプローチするわけです。
社会学は対象が広いため、社会学とは「社会現象について広く知識を学ぶ」ことだというイメージを持つ方もいるようです。しかし、大学で学ぶ社会学は、「広く浅い社会学」ではなく、「関心を持ったテーマを深く掘り下げる社会学」に近いと思います。
私自身は、元々は農村、村落に関心があったのですが、いろいろな経緯で家族を研究するに至りました。日本社会あるいは社会の根本にあるものは何かを考えたい、という目標は変わっていないのですが、現在は主にそれを「家族」「世代」などのレンズを通じて追いかけています。家族は社会の中に埋め込まれているわけですから、家族のあり方を知ることは、現代の社会について知ることにつながるのです。
社会学科の学生たちには、社会学を学ぶうえで、「自分が興味をもてるテーマを見つけ、とことん掘り下げる」ことが大切だと伝えています。上智大学の社会学科では、政治経済から人文、自然科学まで幅広い分野の科目を学ぶことができますが、それはあくまでも、各人が自分の関心を絞り込む上で必要となる情報や、自分のテーマを追求する上で必要な知識を学べるようにするためです。
社会学を、社会のなかで活かす
社会学は、学ぶ側の主体性が強く問われる学問だと思います。社会学科では、社会調査の方法、社会学の理論などについて学び、ゼミなどでその知識を応用、実践していくというカリキュラムが組まれていますが、自分のテーマを見定め、掘り下げるには、社会の諸問題についてアクティブに考える姿勢が不可欠になります。
社会学を特徴付ける、既存の通念にとらわれずに、独自の視点から物事を分析し、新しい考え方を探るというアプローチは、グローバル化や価値観の多様化が進む21世紀にはますます重要になっていくでしょう。社会学を学ぶことは、就職し仕事をする際に役立つ考え方やスキルを身につけることだけでなく、より良い社会を構想し、それに向けた提言を行う力を養うことにつながります。
社会の様々な課題に真摯に向き合い、社会のなかで社会学を活かしていきたいと思う方々に、ぜひ社会学科の門をたたいていただきたいと思います。
- 田渕 六郎(たぶち・ろくろう)
- 総合人間科学部 社会学科 教授
主な研究分野は家族、ライフコース、世代の社会学。主著に Changing Families in Northeast Asia : Comparative Analysis of China, Korea, and Japan(共編、Sophia University Press)など。最近はゼミなどで離島や山村のお年寄りの話をうかがう「聞き書き」に取り組んでいる。