教員が発信する上智の学び

社会福祉、それは社会を変革する原動力でもある

大塚 晃
総合人間科学部社会福祉学科 教授

福祉における研究者の役割とは

大塚 晃 総合人間科学部社会福祉学科 教授

 社会福祉−。皆さんはこの言葉から、いったい何を連想するでしょうか。ボランティアやNPO活動、社会福祉士などの資格…。いずれも社会福祉を支える重要な要素に違いありません。では、もう一つ忘れてはならないこの分野の基盤とは何でしょうか。
それは、制度や政策にもとづく仕組みです。

 私は、知的障害や発達障害をもつ人たちが地域のなかで他の人たちと同じように暮らしていくための仕組みなどを研究対象としていますが、よりよい福祉社会の実現のためには、現場でのソーシャルワーキングと、この制度や政策がしっかりと連動していることが何より重要。いずれか一方では決して成立しません。 制度、政策を直接的に管轄するのは主に行政や政治です。では、そうしたなかで私たち研究者の役割はどこにあるのか。それは全体を俯瞰し、より合理的なシステムを提言していくことでしょう。

 例えば発達障害をもつ人への支援において困難が生じやすいのは、成長過程のつなぎ目の部分。保育の現場から学校へ、また学校から職場へと移るときに、それまでのサポートやその情報などが途切れてしまうのです。しかし行政においては、保育、教育、労働はそれぞれ別の部門の受け持ち。どうしても一貫した制度やシステムを作り上げていくのが難しくなってしまいます。だからこそ、全体を総合的に見て、課題を発見する視点が必要なのです。

求められる問題解決への挑戦者

 「社会福祉や社会保障をもっと充実させよう」という意見に反対する人はほとんどいません。しかし、何をどうのように充実させるのか。財政面はどうするのか。誰が担うのか−。また“極めて個別性が高い”福祉の現場で、しっかりと機能する“一般的な”制度や仕組みを組み立てていくにはどうしたらいいのか。各論においては、問題が山積しています。

 それらを解決するには、やはり専門的な知識や能力をもった人材が必要となります。一つ一つの小さな事例から矛盾や不備をすくい上げ、それを社会全体に敷衍して、問題解決に挑戦していける人材が不可欠なのです。社会福祉というものは、ある面で社会変革の原動力。その変革をしっかり担えるプロフェッショナルの養成も私たちの重大な使命だと思っています。

人との関わりが自己発見につながる

 もちろん、「職種や職業は明確ではないけれど、将来、人の役に立つ仕事がしたい−」。社会福祉学科では、そうした学生たちも歓迎しています。カリキュラムは、基礎科目から専門科目まで段階的・体系的に学べるようになっていますから、入学後でも、現場で働くソーシャルワーカー、政策立案者、制度運営者など、進路の選択は十分可能。もちろん一般企業へも多く就職しています。

 科目のなかで特徴的なものを一つ挙げるなら、3年次の「実習」(選択科目)でしょう。 福祉関連施設などで実際に働く経験を通じて、学生たちは大きな成長を遂げることになります。実習から帰ってきた学生に話を聞くと、はじめは頭で考えていたイメージとのギャップに不安を感じ、「自分にできることは何もないと落ち込んだ」といった種類の感想もよく耳にします。しかしその経験こそが、自己を振り返る機会を与え、自分にできることを教えてくれるのです。

 若い頃というのは、どうしても「自分自身」にばかり意識がいってしまいがちですが、社会のなかでどう生きていくかを考えるとき、「人との関わり」は不可欠なもの。その意味でも、 社会福祉学科での学びや体験は、将来の貴重な財産になると信じています。

大塚 晃 総合人間科学部社会福祉学科 教授
大塚 晃(おおつか・あきら)
総合人間科学部社会福祉学科 教授

障害児の地域生活移行及び地域生活支援システムについて研究。特に、知的障害・自閉症などの発達障害の支援に関する研究を専門とする。

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