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- 小林 章夫 文学部英文学科 教授
初めて直面する課題を解決に導く文学を繙く経験が、その土台をつくる
- 小林 章夫
- 文学部英文学科 教授
300年前の世界を繙(ひもと)
皆さんは英文学、とくに「詩」というと、どんなイメージを思い浮かべますか。おそらく、恋愛を題材とした作品などが多いのではないでしょうか。しかし私の講義で主に取り上げる18世紀の詩は、そうしたものではなく「風刺」がほとんど。他者への悪口、社会に対する憤り…。「こんな言葉で書かれたものが、文学と呼ばれているのか」と驚くのではないかと思います。そこで、こうした詩の面白さはいったいどこにあるのか、そしてなぜ生まれたのかについて繙いていきます。
詩の理解を深めるためには、まずどのような人々が暮らし、いかなる考えをもち、 風刺するにいたったのか。そうした時代背景を知っておく必要があります。そもそも18世紀という時代は、文学を読んだり語ったりする人の数は非常に限られていました。例えば当時の詩はギリシャ・ローマ時代の古典がひとつのモデルとなっていますが、このことを理解できるような、教養のある人々が楽しむ高級なものだったのです。なにしろ300年も昔のことですし、しかも古典を踏まえて書かれている。ですから、ひとつひとつ細かく調べていかなければ、面白さがわかりません。そうして、その時代の社会・政治・文化などにふれながら、知識を吸収する。そこに、英文学を学ぶ醍醐味があるのです。
翻訳を左右するのは日本語の力
「ある程度の英語力があれば翻訳はできるだろう」。そう思いがちですが、実はもっとも大切なのは、日本語の能力を養うことです。英語でどんなことが書かれているのかがわかっていても、うまく日本語で表現できなければ翻訳とはいえません。例えば、英語では頻繁に「I」や「You」が出てきます。でも、それらを「わたし」「あなた」とすべて訳していたら読みづらい文章になってしまいます。とりわけ小説なら、それぞれのキャラクターについて想像力をふくらませる必要もある。
『フランケンシュタイン』という作品をご存じでしょう。作中にはさまざまな人物が登場しますし、当然怪物にもセリフがある。それらを生き生きとした日本語で読者に伝えるには、やはり翻訳者の工夫が求められます。あるいは、ある男性が意中の女性に愛を告白したとします。「いいお友だちでいましょう」という返事なら、そこには「お断り」のニュアンスを表現しなければなりません。つまり、言葉は文脈で変わるもの。詩や翻訳を学ぶということは、言葉の真意をつかむということでもあるのです。
「英語を使える」ということ
本学科は、日本の大学のなかでも、非常にオーソドックスな方針を守り続けている存在でしょう。英文学を学んでも、必ずしも就職と直結するものではないと思う人がいるかもしれませんが、作品と向き合い、調べ、考え、突きつめていく作業は、かけがえのない体験ですし、長い目で見れば充分に役立つもの。実社会では、初めて直面する課題も多いでしょう。大学での経験は、その解決策を探るうえで役立つはずなのです。また、本学科での学習を通じて「英語を使える」とはどういうことであるのか、知ってほしいと思います。あいさつや天気の話ではなく、「今回の選挙についてどう思う?」と問われて、きちんと内容のある意見を述べることができる。そうした力を身につけることが、「英語を使える」ことだと私は考えます。幅広く興味をもち、知識を蓄え、言葉の魅力を感じる。そんな4年間を過ごしてください。
- 小林 章夫(こばやし・あきお)
- 文学部英文学科 教授
イギリス文学・文化を主に研究。近著訳に『女王、エリザベスの治世』(角川oneテーマ21)、ジョンソン『イギリス詩人伝』(筑摩書房)などがある。