教員が発信する上智の学び

日本語、日本の文学・思想を新しい読み方で分析し「思考」と「感覚」を同時に鍛える

小林 幸夫
文学部国文学科 教授

自分の足元を見つめ直して世界を理解

小林 幸夫 文学部国文学科 教授

 私たちが日々使っている日本語と、日本語で書かれた文学や思想、そして日本文学に大きな影響を与えた中国の文学と思想、これらを国文学科で総合的に学ぶ意義はどこにあるのでしょうか。

 私は、私たちの基盤である日本語や日本の文化をしっかり理解することが、世界の文化との差異を手応えをもって?むことができる出発点であると思っています。 私が研究しているのは、明治から戦前まで、開国で流入した西洋文化と日本の伝統的な文化とがぶつかり合いながら近代社会が形成されていく時期、そこで書かれたいわゆる近代文学です。そこには異なる文化の間での葛藤や新しい思想が形成されていく様子がよく表現されています。

 例えば、みなさんにもなじみ深い「恋愛」という言葉。これは「LOVE」の翻訳語としてわずか120年ほど前に誕生したものです。海外の文学を通じ、個と個の内面の出合いから生まれる「LOVE」の概念に触れた当時の知識人たちは、それまでの日本の「色/恋/情」にはないニュアンスを感じ取り、新しい日本なりの「恋愛」のあり方を自分の作品に表現しました。こうした文学の力により、日本社会に「恋愛」という概念が広がっていったのです。このように日本では文学が思想を豊かに担ってきた歴史があり、思想書とも言うべき「徒然草」が文学として高く評価されるように「文学」の範囲も広い。これは理解しておくべきでしょう。

あらゆる問題を解決する方法を体得

 国文学の目的は文学を通して物事の本質を追究することです。そして「研究対象を調査し、情報を集め、分析し、自分の力で結論を導く」という追究の手順は、 物理学でも文学でもどの分野でも同じ。ですから大学でこの手順さえしっかり身につけておけば、社会に出てどんな課題に遭遇しても応用が利くわけです。この「方法」を体得し、専門分野の具体的な知識・知恵をもつことは、大学で何を専門にするにしても変わらない目標だと思います。

 ただし文学では、専門として扱う対象が芸術作品、つまり作者の問題意識と思考回路と美的感覚が凝縮された文章であるというところに特徴があります。 つまり、ほかの学問が実験や「思考」によって対象に迫っていくのに対し、文学研究では「思考」と「感覚」の両方を駆使して作品を読み解いていくことが必要になるのです。こうして2つの力が同時に鍛えられる。これは、ほかの学問にはなかなかない特質だと考えています。

証拠に基いた分析で結論を導く

 大学での文章の読み方は、高校までの国語教育とは大きく変わります。大学では、教科書の文章を理解して感想を述べるという方法ではなく、作品が書かれた歴史的背景、また「源氏物語」などに表されている「あはれ」のように、当時の文化と思考が集約的に表された言葉のもっている内容を重層的に分析しながら作品を研究します。

 いわば「言葉に対する考古学」で、明確な根拠のある情報をいかに組み立てるかを通じて、分析力と思考方法を磨いていくのです。創作活動を志す場合も、こうして「言葉」を突き詰めていけば、表現力、構成力も自ずと高められる。実際、創作の分野で活躍している卒業生・在校生も多数います。

 また本学科では専門を細分化せず、国文学、国語学、漢文学のすべてを総合的に理解できるカリキュラムを取っているため、中学校、高校の教員を目指す場合も、何でも自信をもって教えられる力を身につけられる。これも上智大学の国文学科の大きな特徴の一つです。

小林 幸夫 文学部国文学科 教授
小林 幸夫(こばやし・さちお)
文学部国文学科 教授

専門は日本近代文学。著書に『認知への想像力・志賀直哉論』、『森鴎外論−現象と精神』がある。

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