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- 永野仁美 法学部法律学科 准教授
生活する上で誰もが関わりをもつ法について理解を深める
- 永野仁美
- 法学部法律学科 准教授
身近な問題を自分なりの目で
私が担当している「社会保障法」は、誰もが知らないうちに関係をもつ、とても身近な法律です。病気になれば医療保険を利用して医療サービスを受け、子どもがいれば児童手当をもらい、歳をとれば年金を受け取る。その仕組みを定めているのが、社会保障法です。この仕組みを理解すれば、新聞等でも取り上げられている様々な社会保障関連の問題に対して、自分なりの視点から深い意見を持てるようになると思います。
議論を通じて持論を磨く
法律や政策は社会と密接に関わり合うものですから、論じるにも今の社会を見つめる必要があります。社会保障法のゼミで良くディスカッションのテーマに取り上げる年金制度について言えば、少子高齢化で財源の確保が厳しくなっている現在では、「いかに給付を充実させるか」ばかりでなく、「いかに公平な負担で財源を確保し、制度を持続可能なものとするか」という側面も考えなければなりません。「給付」と「負担」の双方を検討しなければ、実現を保障できない制度となってしまうからです。
学生には、こうしたことを踏まえた上で、制度が抱える諸問題について検討し、グループディスカッションを通じて、解決策を探ってもらっています。その際、私は、「全員が同じ意見でまとまってしまうのは、物事の一方向だけを見ている状態。人と違うことを怖がらず、異なる意見から生まれる議論を大事にしてください」と言っています。他者とのコミュニケーションを通じて様々な視点を獲得しつつ、自分の考えをまとめていく作業は、とても大切だと思います。
他者との連携で社会は成り立つ
ゼミでは、判例を題材として、学生に、判旨に賛成の立場と反対の立場のそれぞれに立って、議論を展開してもらうことも行っています。ここで実感して欲しいのは、「自分とは異なる、逆の立場からも考える」ことの重要性です。学生たちからは、しばしば「困っている原告が気の毒だ。被告である国の立場から、原告を突き放すような意見を言うのはつらい」というような声が聞かれます。
しかし、法にたずさわる仕事に就くのであれば、別の立場に身を置き、物事を客観的かつ論理的に考え、諸問題を調整する力を身につける必要があります。法律を学ぶことを通じて身につける論理力や調整力は、けっして限られた職種だけで役立つものではありません。
「社会保障法を学びたい」と志す方に、知っておいてほしいことがあります。社会保障というシステムは、「税や社会保険料の負担を通じて、困窮する他者に何らかの救いの手を差し伸べる」という側面、つまり、「他者と連帯する」という側面を持っているということです。私たちが納めている税金や社会保険料は、年金や生活保護等の社会保障給付に充てられています。 社会保障の仕組みを通じて、自分の権利と同時に他者の権利も考える。日々の生活の中で、ぜひ意識していただきたいと思います。
- 永野仁美(ながの・ひとみ)
- 法学部法律学科 准教授
専攻は社会保障法。特に、日仏の障害者政策について研究している。著書に、『障害者の雇用と所得保障−フランス法を手がかりとした基礎的考察−』信山社(2013年)。