教員が発信する上智の学び

参加型、体験型の授業などによって新たな自分を発見する

田中治彦
総合人間科学部 教授

世界の問題を"自分事"として考える

田中治彦 総合人間科学部 教授

 「この村の学校はお金がなくて困っています。あなたの寄付があれば、もっと子どもたちに教材や道具を買ってあげられます。どうか学校のために寄付してください。アイコ ナカムラ」

 もし、あなたが開発途上国でこんな看板を見つけたら、寄付するでしょうか?実はこれ、私が専門とする「開発教育」の分野で行っているワークショップの一例です。「困っているんだから、助けてあげればいい」。もちろん、それも一つの考え方でしょう。しかし、実際に学生たちと一緒に議論を進めていくと、話はそう単純ではないことが分かってきます。「ほかにも同じような村があるんじゃないか」「一過性の寄付でいいのか」「そもそも村の人たちの意見をきちんと聞いて看板を立てているのか」……。寄付をする、しないを決める以前に、考えるべきことが山積しているのです。

 お分かりのとおり、このワークショップの一つの目的は、開発援助や国際協力の問題点を浮き彫りにすることにあります。国による開発援助となると、どうしても他人事になりがちですが、身近な話に置き換えることで、課題がクリアになってくる。開発教育の授業では、このような手法を使いながら、援助のほか、貧困や飢餓、紛争、環境破壊など、グローバル社会が抱える問題を“自分事”として考えられる力を養成しています。

"自分"と"社会"のつながりを見つける

 こうした参加型、体験型授業の利点は、課題の具体化、明確化だけに留まりません。 ワークショップでは、自分の立場をはっきりさせて、意見を述べたり、議論したりすることが求められますので、表現力や考える力、聞く力など、総合的なスキルを磨くことが可能です。

 加えてもう一つ、“新たな自分を発見できる”という大きなメリットも見逃せません。 なぜなら、例に挙げた援助問題のような、一見シンプルでも、実は複雑なテーマについて、多角的に考え、判断をするには、自分自身を深く見つめ直すことが欠かせません。

 課題を前にしたとき「自分なら、どう行動するか」を突き詰めていくなかで、自らの本来的な思いが立ち上がってきます。また、他者と議論や意見交換をするなかで、自身の特性やウィークポイントも見えてくるでしょう。こうした自己確認、自己発見の作業は、“社会と自分のつながり”を考えるうえで非常に重要なプロセス。それは、例えば就職に際しても、社会人になってからも、将来の指針となるなど、重要な意味をもつはずです。

学びの主人公はあくまで学生自身

 ワークショップなどの積極的な導入が象徴するように、上智大学の教育学科は、従来型の知識偏重のスタイルとは異なる教育観を大切にしています。

 具体的には、単に決められた学習内容を勉強していくのではなく、自らテーマを設定し、教師と共に参加型、体験型の授業などを通じてカリキュラムそのものを作り上げていく——。

 そうした教育を実践するなかで、学生たちに学びの主人公が自分自身であることを再確認してもらっています。教育学科の卒業生の進路は、教職や省庁、民間企業など、さまざまですが、おそらく広い意味での「教育」と無関係な職場というのは存在しないでしょう。

 その意味でも皆さんには、この学科で、人間について、また社会や世界について、教育の視点から、ぜひ能動的に学んでほしいと考えています。

田中治彦 総合人間科学部 教授
田中治彦(たなか・はるひこ)
総合人間科学部 教授

専門は、生涯学習・青少年教育および開発教育・環境教育。社会活動として国際協力NGOに関わる。著書は『開発教育 — 持続可能な世界のために』『若者の居場所と参加』等。

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