教員が発信する上智の学び

実践的なスペイン語力と言葉の背後にある思想を身につけ新しい視点を手に入れる

アントニオ・ルイズ・ティノコ
外国語学部イスパニア語学科 教授

「バーチャル旅行」で高める語学力

アントニオ・ルイズ・ティノコ 外国語学部イスパニア語学科 教授

 外国語学部では、各学科の専攻言語と、言語や言語圏に関わる専門テーマを学習します。2年生までは専攻言語を徹底して訓練。単に語学を学ぶだけでなく、講読の授業では南米の神話を取り上げるなど、スペイン語圏の思想に触れたり、現地の情報を得られるよう工夫しています。作文の授業の場合、4人程度のグループによる「バーチャル旅行」なども体験してもらいます。例えばペルーのマチュピチュなど好きな場所を目的地に決め、飛行機や宿の予約メールを書く。

 行きたい場所や見たいものをウェブで調べ、感想をTwitterに投稿するつもりでまとめてもらう。学生の関心を高め、「使えるスペイン語」を身につけてほしいというのが狙いです。3年生になるとスペイン語でのディベートも行います。テーマの選択は学生に任せており、政治や経済の話題、死刑制度や制服への賛否、同棲の可否や闘牛は行うべきかなど多彩。賛成・反対のどちらで議論するかは直前に決まるので両方の視点で考えなければなりませんし、もちろん事前の調査も必要です。大変ですが、達成感があるという声は多いですね。

生きた言葉の動向をとらえる

 学部では3年生に上がる際に各自の関心に応じたゼミに分かれ、選択したテーマの研究を進めます。私の専門は応用言語学で、いま最も興味があるのが方言。スペイン語が話される地域は広く、マドリッドで普通に使われる言葉が、コロンビアでは不作法に響くという例も珍しくありません。いわゆる“標準語”には文法などに明確な規則があり、違う使い方をすれば学校の授業などで誤りを指摘されますが、方言はそうしたことも少なく、語彙や文法も比較的自由に変化していく。その変遷を追っていくと、言語の本質をとらえやすいのです。研究では文学作品をサンプルに2千万語を超えるデータベースをつくり、地域、時代ごとの言葉の使われ方の違いを比較。

 またスペイン語が話される国・地域に出かけ、実地調査も行います。Twitterの発言を収集すれば発信地もより細かく特定でき、昨年のデータと比較すれば言語がどの方向に変化しているかといったことも分かる。従来からある言語学の仮説もかなりの精度で検証可能です。すると標準ルールを絶対視していた学者の態度も変わってくる。現状は教科書通りではないんです。スペイン語もやがて英語のように、地域ごとの違いについての知識が必要になるかもしれませんね。

複数の視点から見えるものとは

 スペイン語を学ぶことは日本人にとってはチャレンジでしょう。同じヨーロッパの言葉なら語彙も文法もそう変わりませんが、日本語は大きく違う。そして一番のハードルは発想の違いです。スペイン語をスペイン語らしく話したいなら、その背後にある考え方も理解する必要があります。よく「白黒の国」と表現されるように、スペインでは自分の立場を明らかにすることが好まれます。また他人と変わっていることは美徳で、その思想が表現にも反映されます。こうした発想の違いを意識し、スイッチを切り替えていく必要がありますね。ただ、これが上手くできるようになると、語学以外にも大きな武器を手に入れることができます。

 従来の日本人としての視点に、スペイン語の発想が加わり、社会問題でも仕事の課題でも、あらゆる物事を複眼で見て、判断できるようになる。モノラルでしか聞こえなかった音楽が、ステレオで聞こえるようになる。あるいは2Dの画像が3Dで見えるという感じです。日本語とは異なる言語を通じ、新しい視点を身につける。これも当学科の大きなメリットでしょう。

アントニオ・ルイズ・ティノコ 外国語学部イスパニア語学科 教授
アントニオ・ルイズ・ティノコ
外国語学部イスパニア語学科 教授

文学博士(言語学、筑波大学 1988年)コーパス言語学、言語情報論、語彙・文法ヴァリエーション、『スペイン語の変異』、『デイリー日西英・西日英辞典』など。

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